投資だから築ける長期的な関係
――いま、ARUNの投資先でうまくいっている事業には、どんなものがありますか?
功能:いま、カンボジアでがんばっている事業は、ソーラーパネルを普及させて、無電化地域をなくしていこうというものです。同時に、石油やディーゼルに頼った発電から太陽光発電に変える事で環境問題も解決していこうとしています。
家庭もそうですし、学校や病院といった公共施設にも普及していて、家庭に対しては数百ドル程度の払える金額で販売し、一括支払いが難しい場合には分割払いも受け付けています。カンボジアでは電気にアクセスできる家庭は3割程度にすぎず、農村ではさらに低いことから、注目されている事業です。
カンボジアでよいものをつくって、それが国内外で認められていくことは、カンボジアの人々の尊厳や自尊心を高め、誇りになっていきます。「自分たちはだめだよね」とかつて言っていたカンボジアの人々が、「カンボジアのお米はおいしいから、世界中の人に食べてもらいたい」と自信を持って言えるようになる。そういう変化はとても素晴らしいものだと感じています。
それは、援助だけでは達成できないものだと思います。相手国の政府を対象に産業育成政策を支援しても、なかなか実際のビジネスは生まれません。現場に行ってパイロット事業を一緒にやることもありますが、外から来た親切な物好きがやっている、という感じで、なかなか現地に根付かない。そこに、誰が経営するのか、どうやって収益事業化していくのかという観点やビジネススキルを入れないと、長続きしないし広がっていかないんですよね。
――社会的投資の活動をしていて、喜びややりがいを感じるのは、どんな瞬間ですか?
功能:うれしい瞬間はたくさんありますよ。投資先の企業で働いている人が、最初に会ったときと、働き始めてからしばらくしてからでは、全然表情が変わるんです。前はあまり話をしなかった人が自信をもって人と語り合えるようになっていたりとか。仕事を通して、自分のスキルや仕事や、自分自身の存在に自信を持てるようになったから。そういう変化を感じられる瞬間は、とてもうれしいです。
また、起業家からの信頼を感じられる瞬間もうれしいですね。ARUNを信頼して、一緒にやっていこうというメッセージをいただくととてもうれしいし、大事にしたいと思います。いただいた信頼に応えるためにも、もっともっと日本からの投資を増やしていきたいと思っています。
グローバルな社会的投資の市場は年々成長しており、市場規模は一説には600億ドルと言われていますが、日本からの投資はほとんどないんです。ある機関の調査では、1,000万ドル以上の社会的投資ファンドが世界中で146あると報告されていますが、その中に日本の機関はひとつも入っていません。社会的投資市場では、日本の存在が全然見えないんです。
それはとても残念なことだと思っています。日本の存在が現地で見えるくらいに日本からの社会的投資を拡大していきたい、それはお互いの理解をより深めることにもなると思うんです。そうすることで、日本も世界の動きに加わり協力することができます。だから、社会的投資の流れをもっともっと大きくしていきたいですね。
(第三回「誰もが生き生きと才能を発揮できる社会を」へ続く)
功能 聡子(こうの さとこ)* 国際基督教大学(ICU)卒業後、民間企業、アジア学院勤務の後、1995年よりNGO(シェア=国際保健協力市民の会)、JICA、世界銀行の業務を通して、カンボジアの復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し 2009年ARUNを設立。2014年にNPO法人ARUN Seedを設立、代表理事を務める。