仕事と社会をつないで、忘れていた熱さと志を取り戻す「留職」プログラム

NPO法人クロスフィールズ 代表 小沼大地

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――青年海外協力隊に参加されたということですが、もともと国際協力やボランティアに関心が高かったんですか?
 
小沼:いえ、ボランティアであるとか、社会貢献というものに興味はほとんどありませんでした。僕は教員を目指していたんですが、高校の社会科の先生になる前に、社会を知りたいと考えていました。それで、会社勤めよりもおもしろいことはないかなと思っていたところに、電車で青年海外協力隊募集の広告を見て、これだ!と思った。ただそれだけの理由なんです。本当に出来心ですね。いま考えると、よく受かったなと思います(笑)。
 
――それで派遣先がシリアというのも、またすごいめぐりあわせですね。
 
小沼:そうなんです。僕は環境教育という職種だったんですが、環境教育の派遣先リストの95%は中南米。だから僕もてっきり中南米のどこかに行くと思っていたんですが、なぜかシリア。最初は本当に位置もわからなくて、中南米の地図を見て一生懸命シリアを探したくらいです(笑)。
 
――大学を卒業されて、大学院進学と同時に青年海外協力隊で2年間シリアに行かれて、帰国されてからクロスフィールズを立ち上げるまでは、どんな活動をされていたんですか?
 
小沼:大学院に戻って修士号をとって、その後コンサルティング会社で3年ほど働きました。青年海外協力隊での活動を終えて、国際協力、あるいは社会貢献の世界とビジネスの世界をつなぐということが、僕自身のテーマとして明確に見えてきたんですが、そのときの自分のキャリアに、社会貢献の経験はあっても、ビジネスの経験はまったくなかったので、一度ビジネスの世界に入らないと、ふたつをつなぐことはできないと思ったんです。
 
 だけど、僕も実は流されやすいほうなので、会社に入って仕事をする中で、自分の想いが流されて消えてしまったら嫌だなと思って、仲間内で「コンパスポイント」という勉強会を立ち上げて、熱い想いを保てるようにしていました。
 
――ビジネス経験を積む場としてコンサルティング業界を選ばれたのは、それがもっともその後に役立ちそうだと思われたからですか?
 
小沼:そこまで深く考えていたわけではなくて、青年海外協力隊のときと同じで、これも単純な理由です。シリアで活動している中で、ビジネスセクターの知り合いは、ドイツ人コンサルタントの上司だけだった。その人に、「僕もビジネスというものを知りたい」と相談したら、「それにはコンサルタントが最高よ」と言われて、じゃあ、って(笑)。
 
 実は、キャリアの節目節目で、「この人かっこいいな」と思う人の背中を追いかけるようにしてここまで生きてきました。青年海外協力隊のときも、広告を見てから、実際に会った協力隊の人の中に、「この人かっこいいな。こうなりたいな」と思う人がいて、参加を決めましたし。コンサルティング会社もシリアで一緒に働いたドイツ人上司を見て「かっこいいな」と思って入ったし、NPOを立ち上げたのも、NGOで活躍する先輩に「こういうふうに生きたいな」と憧れる人がいたから。ロジカルに考えるところももちろんありますが、最後に腹を決めるときは、「この人かっこいいな」が決め手になることが多いんです。
 
――そのNGOの先輩というのは?
 
小沼:アフリカのスーダンなどで医療活動を行っているロシナンテスというNGOの川原尚行さんです。
 
 シリアから帰国して、NGOとビジネスをつなぐために、まずはNGOについて勉強しなければと思ったので、大学院ではNGOの研究をしていました。いろんな団体を見たいという気持ちと、アフリカに行ってみたいというミーハーな気持ちもあって、アフリカで活動するNGOにインタビューすることにしたんですが、現地に伝手もなかった。僕は2年間シリアにいたのでアラビア語ができるんですが、スーダンはアラビア語だったので、現地で活動しているロシナンテスという団体に「アラビア語ができるので、なにかお手伝いができるかもしれません」とメールをしたら、すぐに返事が来て、来て通訳をしてほしいと言ってくださった。それが川原さんだったんです。
 
 現地に行ったら、そのまま無医村に連れて行っていただき、田舎の小さな村の診療所で川原さんの通訳をやらせてもらいました。川原さんと寝食をともにしながら、いろんな話を聞いて。僕が出会ったタイミングで40代でしたが、すごい人なんですよ。もともと外務省の医務官を務めていた人なんですが、外務省の医務官は在スーダンの日本人しか診療してはいけないという決まりになっていることに、「現地にこんなに困っている人がいるのに、なんで俺は日本人しか診てはいけないんだ」と憤って、外務省を飛び出して、自分のNGOをつくってしまった。
 
 「そうやって人生ってつくれるんだな」ということを見せてもらったような感覚があって、自分で自分の人生を切り拓いていくのって、なんてかっこいいんだろうと。彼に対する憧れは非常に強かったように思います。いまでもときどきお会いしていますが、本当にこういうふうに生きたいなと思える、尊敬する方です。
 
――コンパスポイントのセッションのゲストとして、ロシナンテスの方がよく登場されているのには、そんな背景があったんですね。
 
小沼:そうなんです。このすばらしい人の話を、僕の周りの友人たちにも聞いてもらいたいと思って。僕の友人たちはNPOや社会貢献とはかなり縁遠いコミュニティだったんですが、逆につないだらめちゃくちゃ面白いんじゃないかと思った。
 
 協力隊にいたときにも強く感じたんですが、優等生的な人材が大企業に入ることは、ともすると、そこに閉じてしまう部分がある。そうした人たちをもっと自由な世界へ投入して、さまざまなコミュニティの間を人が行き来することで、もっとおもしろい世界ができるのではないかと考えているんです。
 
(第2回「すべての人が、思いを自分の仕事に込められるように」へ続く)
 
小沼 大地(こぬま だいち)*1982年神奈川県生まれ。青年海外協力隊としてシリアにて環境教育事業に従事。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月独立、NPO法人クロスフィールズ設立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出されている。

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