産後ケアの普及による社会問題の予防と解決を目指して

NPO法人マドレボニータ代表 吉岡マコ

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産後ケアで、世界は絶対によくなる
 
 出産を起点とする問題には、産後うつや産後うつに起因する児童虐待、離婚、離職など、さまざまなものがある。
 
「たとえば、厚生労働省の調査によると、死別や未婚の母を除いて『母子家庭になった時期』を見てみると、その3割以上が産後2年以内に夫と離婚しています。虐待死のデータも先述したとおりですし、育児休暇を取得する人が増えたとは言え、出産退職も依然として40%を超えています。これは日本全体の数値ですから、マドレボニータの教室で産後ケアに取り組んだ受講者の中での割合を算出して、そのパーセンテージの違いを数字で出していくことができれば、産後ケアの効果を示すひとつの指標になるかなと思っています」
 
 マドレボニータが目指すのは、産後ケア文化を広めることで、産後の女性が自分自身の人生と真摯に向き合い、その力を存分に発揮できる社会の実現。
 
「このミッションを実現できているかどうかというのは、定量的にも定性的にも指標化するのが難しいのですが、それは私たちのチャレンジでもあります。そもそもその人が本来持っている力を発揮するということと、その手段としての産後ケアがなかなか結びつかないと思われる方も多いと思うんですが、マドレボニータの産後クラスとの出会いが、自分の人生を見つめ直すきっかけになったという方は実際にいるんです」
 
 子どもが生まれると、その後の人生は子どものために生きるものだと思う人も多いかもしれない。しかし、吉岡さんのもとには、「マドレボニータの産後クラスに通ったことで、自分が本当にやりたいことが見えてきて、自分の人生を生きるとはどういうことか、わかってきました。そしてそれを子どもに見せていくことが大事なんだと思うようになりました」といった熱いメールが届く。
 
「産後というのは実はすごいターニングポイントなんです。子育てで忙しくてうやむやになりがちですが、こうやって教室で立ち止まって考えたり、自分の気持ちを言葉にして語ったり、リハビリのために体を動かしたりすることで、自分の人生をもう一度見つめ直すきっかけになる。そういう方々がマドレボニータのインストラクターになってくれたり、職場復帰して活躍していたりというケースを、私たちは間近で見ているので、そういう女性が増えれば、世界は絶対よくなるはずだと信じられるんです。それをうまく見える化して伝えて、たくさんの人を巻き込んでいくことがこれからの課題です」
 
 昨年の受講者は6,000人。日本全体の出生数はおよそ100万1,000人だったので、出産した女性の0.6%が受講したことになる。吉岡さんは、この数値を2020年までに5%まで引き上げたいと言う。
 
「2020年までに年間受講者5万人を目指しています。出産する女性の20人にひとりが受講している状態になっていれば、『意識の高い人がやっている』ではなくて、『誰でもやっている』と言えるところまで持っていける。そうやって、産後ケアに取り組むことが当たり前の文化をつくっていきたいと考えています」
 
 今年3月に見事WomenWill賞を受賞したGoogleインパクトチャレンジで掲げたのは、出産祝いに産後ケアを贈る文化を普及させることで、産後うつや早期離婚の予防を目指す「産後ケアバトン+(プラス)」プロジェクト。マドレボニータで産後ケアを受けた女性が、その重要性に気づき、産後ケア文化を拡大・発展させる仲間になってくれることも狙っている。ひとり親や障害児の親など、産後クラスへの参加が難しいと思われる母にも産後ケアを届けるための「マドレ基金」も設立した。たくさんの人を巻き込み、支えられながら、「産後ケア文化」の形成に向けて、マドレボニータは一歩一歩着実にその歩みを進めている。
 
吉岡マコ(よしおか まこ)*1972年、埼玉県生まれ。東京大学文学部美学芸術学卒業後、同大学院生命環境科学科(身体運動科学)で運動生理学を学ぶ。1998年3月に出産し、産後の心身の辛さを体験。産後の女性にケアが必要だという概念さえないことに気づく。同年9月に「産後のボディケア&フィットネス教室」を立ち上げて以来、日本に「産後ケア」の文化をつくるための活動を続けている。

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