アフタースクールを日本の子育てインフラに!

放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩国泰

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どんなに細くても、長く続く取り組みを
 
 新しい取り組みは常に0から1へのブレークスルーが最も困難を伴い、1ができれば2、3、4、5……と比較的流れていくものだ。アフタースクールの取り組みも例外ではない。
 
「NPOの方々は皆さん経験されていると思いますが、1ができるまでは、とにかくコツコツと一点突破。僕たちの場合は公民館で週1回のアフタースクールの実績を積み重ね、そこでできたモデルを小学校でも展開させていただいて、その実績をもとに新渡戸文化学園で学校と連携して学校施設をフル活用しながら毎日運営するアフタースクールの第1号をやらせていただいた。次は公立で廉価にできるアフタースクールのモデルをひとつつくって、広げていきたい」
 
 一つひとつのブレークスルーの傍らには、必ず応援してくれる人の存在があった。公民館でのはじめてのプログラムに子どもたちを集めてくれた民生委員の女性、世田谷区の学校に声を掛けてくれた保護者の方、アフタースクール第1号の機会を与えてくれた理事長。陰に日向に活動を支え、励ましてくれたたくさんの保護者や市民先生の方々。そうした応援を引き寄せたのは、すべて平岩さんをはじめとする、アフタースクールのスタッフの方々の熱意とひたむきな姿勢だ。
 
「大変なこともたくさんあるけれど、楽しいです。自分の人生をかけた仕事として、充実しているな、と思えます。僕は、自分がそうしたように、しばらくサラリーマンとして一般企業で働いてからNPOに入る人をもっと増やしたいと思っています。学校を出てからいきなりNPOに就職するのは、いまの日本ではまだまだハードルが高いし、会社で働くことで身についたノウハウとか、鍛えられたことって、やっぱりすごく重要だと思うんですよね。NPOはある意味、お金を集めてくる、言い換えれば稼ぐ能力が株式会社以上に必要ですから。だけど、アフタースクールに限らず、今後日本にしっかりしたNPOがもっと増えていけば、いまと同じコストでもっと成果を出していけると思うんです」
 
 行政の取り組みには「税金を払っているんだから」と厳しい目を向ける人でも、NPOが取り組めば、「なにかできることはありませんか?」と協力的な姿勢になる場合もある。NPOがもっと存在感を高め、寄付もしっかり集められるようになっていけば、世の中の社会課題の解決スピードは、飛躍的に上がっていくことだろう。
 
「だけど、やっぱり会社を辞めてNPOの世界に飛び込むのって、勇気が要りますから。僕の場合は会社を辞めてここまでやってきましたが、それが絶対だとも思いません。仕事をしながらボランティアで週に1回の活動を続けていたとしても、それはそれで意味があったと思うんです。だから、自分のできる範囲でやっていくのがいいと思います。その代わり、続けることにはこだわってほしい。細くてもいいから、長く続けていくということが、いちばん大事だと思います。そのうちに進むべき道が見えてきます。決意も自然に固まります。ゆっくり固まった氷は割れにくいと言いますが、志も同じです。ゆっくり固まった決意は簡単に崩れることはありません」
 
 子どもたちの放課後のために。社会起業家を志す人々のために。娘を授かったことで始まった1人のお父さんのチャレンジは、これからも続いていく。
 
 
 
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは50,000人を超える。2008・9年度グッドデザイン賞受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。
 
【撮影:遠藤宏】

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