アフタースクールを日本の子育てインフラに!

放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩国泰

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財政的余裕のない自治体でも展開できるモデルを
 
 日本では、学童保育に充てられる予算はかなり限られたものだ。全国平均はひとつの運営団体あたり、年間およそ1,000万円。そこから家賃、光熱費、子どもたちのおやつ代といった経費を差し引くと、学校外で運営されている施設の場合、人件費に回せるのは、せいぜい300万円から400万円程度になる。
 
「そこにたとえば2人のスタッフを置くとすると、年収はひとりあたり150万円から200万円ということになりますよね。もう、どこもほんとうにぎりぎりでやっています」
 
 多くの学童保育が厳しい状況に置かれている原因のひとつには、学童保育が実は比較的新しい制度であり、国が本格的に取り組み始めてから20年足らずということもあるのだろう。
 
「昔は、学校が終わると子どもたちは適当に地域で遊んで、5時になったらお母さんが待っている家に帰って夕食を食べて、という世界が日本の放課後のベースだったんだと思うんです。だけど、日本での女性の働き方が変わるにつれて、学校が終わってから保護者が家に帰ってくるまでの間、子どもたちが放課後を過ごすための居場所が必要になり、ほんとうに必要とする方々が、一生懸命学童保育をつくってきた。国も少しずつ法律をつくったりしながら追いかけて来たけれど、近年、需要が急激に増えて、対応が追いついていない状態なんですよね」
 
 女性の社会進出や労働の長時間化が進むにつれ、学童保育の需要は急激に高まったが、供給が、とくに公立のインフラが不足していると、平岩さんは指摘する。現在、5校の小学校と連携してアフタースクールを展開しているが、この取り組みを全国的に広げていくことが当面の課題だ。
 
「来年の春から、ある公立小学校のPTAの皆様との共同運営方式でやらせてもらえることになったんです。区が費用を出してくれて、保護者の方からも少しいただいて。PTAの方々は放課後を豊かにしたい思いはありますが、ノウハウはないので、私どもがそこをお手伝いする形です。PTAの皆様との連携を今後さらに広げていくためには、これがひとつのモデル校になるかなとも考えています」
 
 とは言え、東京23区はやはり特別だとも言われている。地方と比べると圧倒的に財力があることに加え、多数の大企業の本社が集まる東京は寄付を集めやすい場所でもある。
 
「だけど、首都圏を少し離れると、財政的余裕はないような自治体がほとんどです。民間の学童もありますが、料金がかなり高額です。だから、必要な人が誰でも利用できるように、やっぱり公設の社会インフラとして、低価格の、できれば無料の放課後の子どもたちの居場所をつくっていきたい。そのためには、質を保ちつつ運営コストを下げていかなければなりません。アフタースクール第1号を都内でつくったのがステップ1とすると、このモデルを財政的余裕のほとんどない自治体でも展開できるモデルに仕上げて全国に広げていくのが、僕らの次のステップです」
 
 平岩さんが目指すのは、「放課後NPOアフタースクール」の組織や事業の規模を拡大することではなく、平岩さんたちの取り組むモデルが全国に広がっていくことだ。
 
「それぞれの地域の方々が担い手となってアフタースクールが全国各地で展開されているっていうのが、僕らの目指している将来像です。そして、『あの団体がアフタースクールというものを日本につくって、大切な子育てインフラとして後世に残した』って言ってもらえたら本望です(笑)」
 
 子どもたちが安全に放課後を過ごしながら、さまざまな学びを身につけられるアフタースクール。アフタースクールの充実した小学校をつくることは、保護者にとって子育てのしやすいまちをつくることにもなる。「小1の壁」が大きな社会課題として認識される中、自治体にとっても、まちづくりの施策として有効な手段となっていくはずだ。

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