子どもたちの成長を実感しながら
学校の中でやれるのがいちばんいい
現在、日本全国には小学校の数とほぼ等しいおよそ2万2,000の学童保育が存在し、90万人を超える子どもたちが利用している。学校内の施設で運営されているものは、そのうち半分程度だ。
「そうでない場合は、僕がやっていたように公民館や児童館で、あるいはアパートを借りてやっています。だけど、ほんとうは学校の中でやれるのがいちばんいいんですよね。移動の手間も危険もないし、耐震が危ういところでやっているようなケースもけっこうあるので」
平岩さんがアフタースクールの活動を始めるきっかけとなった連れ去り事件などは、子どもが学校を出た後、ひとりになった瞬間を狙われたものであることを考えると、安全な学校の中でやれるに越したことはない。そうなっていない学童保育が半分も存在するのは、学校は文部科学省、学童保育は厚生労働省の管轄という、いわゆる縦割り行政の結果でもある。
「『学童は厚労省がやっているものだから、学校には入ってきてほしくない』と考える方もいらっしゃるのが、残念ながら現実です。もともと学童は、ほんとうに必要な方々が必死に頑張ってつくりあげてきたもの。もともと学校とは別のところで立ちあがってきた歴史が意識を分けてしまっているのかもしれません」
少子化に伴い、多くの学校が余った教室を抱えているにも関わらず、そうした教室を学童保育に活用させてほしいと言うと、「空き教室なんてない」「資料置き場にしているから、使わせられない」などと理由をつけて断られることも珍しくない。だが、学校外では、学童保育に使える施設を見つけること自体がまず大変だ。子どもたちが集まる施設である以上どうしても騒がしくなるため、アパートなどを借りようとしても断られることもある。
「部屋を借りられても、やっぱり家賃のこともあるから、そんなに広いスペースを確保するのは難しい。子どもがすし詰め状態になっていて、廊下まではみ出して宿題をやっているなんていうケースもあります。狭い部屋の中で置いてある本も読みつくして、ほかにやることもなくて、もう学童に行きたくないって言い出す子もいます。そうすると、保護者も困ってしまいますよね。仕事が続けられなくなってしまいますから」
学校施設の中で学童保育やアフタースクールを行うメリットのひとつは、家賃がかからないことだ。家賃に充てていた費用を活動費に回せるばかりでなく、音楽室や実験室、体育館など設備の整った教室を活用することで、さまざまなプログラムが展開できる。
「もともとの成り立ちを考えると学校と学童は分けて考えてしまうところもあります。また学校は教育の場であり、第二の家庭である学童の場としては馴染まないというご意見や不登校の子が行けなくなるというデメリットもあります。それでも、子どもの安全や耐震やまた良い場所を必死に探す学童スタッフの皆様のことを考えると、学校で行うメリットの方をとるべきだと思っています。学校施設を活用した放課後のモデルを、国も推進する姿勢ですから、制度的な縛りはありません。学校内の施設を活用する学童は少しずつ増えてきていますが、さらに積極的に展開していくためには、保護者が必要の声を高め、関係者のご理解を深めていくことが必要だと思います。何より、子どもたちのためということで意識を揃える必要があります」
(第三回「アフタースクールを日本の子育てインフラに!」へ続く)
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは50,000人を超える。2008・9年度グッドデザイン賞受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。
【撮影:遠藤宏】