アプローチ次第で能力は伸ばせる

株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

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必要なのはメンタルサポートよりも情報整理
 
 Kaienで行っているトレーニングの効果は、Kaienを介して発達障害者を雇った企業のリピーター率の高さにも表れている。
 
「仕事ですから当たり前かもしれませんが、とてもつまらないトレーニングもあります。だけど、それらをまじめにやるのが彼らのよさなんです。ほんとうに純粋で、一生懸命やる。究極のパス待ち人間って言っていますけれど、パスの配給者がうまければ、上手に動かして職場で能力を活かしてあげられる。彼らを上手にマネジメントできる人は、やっぱりいい上司だと思います。いい上司は、パス出しがうまい。つまり、相手に合わせてパスを出すことができる」
 
 Kaienのクライアント企業には、発達障害者の部下を上手にマネジメントしている上司が多いが、彼らは発達障害について特別勉強しているわけではないという。「ほかの健常者の部下のマネジメントと、大して変わらない」と言うのだ。
 
「『がんばれよ』って声をかけて気持ちの面で支えてあげるとかじゃなくて、人の能力を機能として捉えて、この機能が得意でこの機能が弱いのであれば、こういう仕事をアサインして、こういうパスを出せばいい、と割り切っているんですよね。そうした見積もりが上手な人はいいリーダーになるし、それは一般的なマネジメントにもそのまま言えることだと思うんです」
 
 相手の能力を見極めた采配に加え、単純化、構造化、視覚化といった発達障害者に適したマネジメントの手法は、鈴木さん自身がMBAで学んだリーダーシップの考え方ともほとんど同じだという。一方で、鬱などを抱えた人に有効なアプローチと、発達障害者に有効なアプローチには、大きな違いがあるという。
 
「鬱で職を失った人や発達障害のない就業困難層や引きこもりの人たちに向けた支援も増えて来ていますが、そこでよく言われるのは、共感と傾聴の重要性です。その人に寄り添って、気持ちを聞いてあげる。『助手席に乗って励ます』イメージです。一方で、発達障害の場合は、カーナビみたいにやったほうがいい。つまり、カーナビって道に迷っても、『大丈夫だよ』とか『がんばれ』とかは言ってくれませんよね。地図があって、現在地はここで、目的地はここだから、次は直進、とか。曲がり角を間違ったとしても、カーナビは怒らないし、がっかりもしないで、じゃあ次はこっち、と。それと同じように、発達障害の人たちには、気持ちのサポートよりも情報の整理をしてあげるほうがいいんです」
 
 そうした点を理解して使い分けることができれば、発達障害者の支援やマネジメントのノウハウは、健常者に向けた就職サポートや部下マネジメントにも十分流用できるものと言えるだろう。
(第三回「夢や価値観を提供できる企業を目指して」へ続く)
 
鈴木 慶太(すずき けいた)*2000年、東京大学経済学部卒。NHKに入社し、アナウンサーとして報道・制作を担当。NHK退職後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学しMBAを取得。長男の診断を機に発達障害の能力を活かしたビジネスモデルを模索し、帰国後Kaienを 創業、現在に至る。
 
【写真:shu tokonami】

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