アプローチ次第で能力は伸ばせる

株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

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画像提供:株式会社Kaien

多様な職種体験とhere and nowテクニック
 
 就労に向けてKaienで行われているトレーニングはユニークなものだ。
 
「Kaienのトレーニングには大きく分けて2つの特徴があります。ひとつめは、1週間から2週間ごとに、いろんな職種を体験すること。何人かのチームを組んで、上司役の当社スタッフとやり取りをしながらプロジェクトを遂行していきます。OJTを短期間で繰り返しやっていくようなイメージです」
 
 体験する職種は、人事、マーケティング、データ入力、システム系と多岐にわたる。その半分は顧客の存在しない架空のプロジェクトをロールプレイングとして行うものだが、半分はKaienオンラインショップでの実際の業務だ。オンラインショップのため、目の前の客とリアルタイムでやり取りをすることはないが、実際に商品を販売しているため、クレームがつくこともあり、それだけ実践的な学びの場となっている。
 
「こうして多様な職種を学ぶことによって得られるメリットは、自分の向き・不向きがわかってくることです。自分に合わない職種が先にわかっていれば、間違った選択をするリスクが減ります。そのメリットはとても大きい」
 
 もうひとつの特徴は、疑似職場として実際の職場に近い構造でトレーニングを行うことだ。たとえば、その1週間のテーマが「人材のマッチング」であれば、金曜日の夕方までにプロジェクトの成果を上司に報告できるようスケジュールを立て、朝出社して夕方まで業務に取り組む。そうして実際の職場とまったく同じように1日、あるいは1週間を過ごすのだ。
 
「就労トレーニングというと、ハードスキルを学ぼうとしがちですが、発達障害の人たちは、多くの場合、ソフトスキルがだめなんです。上司や同僚とのコミュニケーションとか、段取とか。それらは知識や教科書で学べるようなものではありませんから、実践の中で身につけられるようにしています」
 
 たとえば相手の都合を顧みずに一方的に話をするといったような失敗を先にしておけることで、実際の就労先でのトラブルはぐっと避けやすくなる。
 
「トレーニングでは、“here and now”というテクニックを用いています。“いま、ここで”。どういうことかと言うと、『上司が忙しいときに話しかけてはいけません』という知識を教えるのではなくて、疑似職場で実践的なやり取りをしながら、『いま君はこういうことをしたけど、それを実際の職場でやったら怒られるよ』と、その場で指摘する。再生されているVTRを一時停止して、そのノウハウを教えて、また流すようなイメージです。レクチャーよりも、here and nowのほうが絶対いいんです、どんな場面でも」
 
 ただし、here and nowは、指導する側にとっても非常に難しいテクニックなのだという。
 
「教えているほうがその場その瞬間に気づかなければいけないし、そこで本人が受け止められる分量だけ適切に指導しなければいけない。すごく動的なコミュニケーションなんですよ。こちらが用意したことを教えるのではなくて、流れの中でこういうことを教えたほうがいいな、という要素を見出しながら行うので、とても難しい」
 
 教える側のスタッフも年に2回の合宿や教材ビデオの作成でノウハウの共有化を図っている。とはいえ、そうしたノウハウはいわゆる現場でしか伝えられない部分があり、最終的にはスタッフ間で増殖していくしかないと鈴木さんは考えている。

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