チャレンジで自分と地域の未来を変える
写真提供:株式会社ワクワーク・イングリッシュ
新しい層に向けた新しいビジネス
名古屋に本部を置くNPO「ふくりび」と共同で行っているサロン事業も、2013年11月に本格的にスタートした。
「NPO『ふくりび』の皆さんが、フィリピンの子どもたちの夢の実現に共感してくださり、出店を決意してくださったんです。カットのほかにネイルやマッサージも行う、複合的な美容サロンです」
日本のプロのスタイリストたちがフィリピンの孤児院やロレガの若者たちにスタイリングの技術指導を行うばかりでなく、訓練を終えた若者たちが実際に美容師として働けるよう、サロンもオープンした。だが、オンライン英会話とはまったく違う業種のため、苦戦する部分も多いという。
「カフェもそうなんですけど、教育業とサービス業では、働く人のモチベーション、時間に関する感覚などが、全然違った。カフェとサロンでは、イングリッシュのように最初からプロの講師陣を雇うことをしなかったので、全員が初心者からのスタートになった点も違いますし」
なにか問題が起きても、神頼みのようなところがあり、自らチャレンジしていくような動きになりにくいなど、自ら考え、動いていける組織になるまでに時間がかかったという。だが、課題を抱えつつも、事業は軌道に乗り始めている。
「フィリピンの人は身だしなみに非常に気を使うので、もともと美容のニーズは高いんです。路上で60円で切っているようなところもあれば、モールに入っているような韓国資本、イギリス資本のところまで、美容院もたくさんあって。たまたま日本人経営のお店はなかったこともあり、出店してみたら、現地に滞在している日本人も来てくださるんですが、中間層くらいのフィリピン人のお客様がメインになっていますね」
これまでフィリピンには富裕層と貧困層の二極化した層しかなかったが、英会話の先生やコールセンターの職員といった新しいビジネスが現地に生まれた結果、中間層が新たに生まれてきている。ワクワークとNPO「ふくりび」の運営するサロンにやってくるフィリピン人の顧客は、この中間層に属する人々が多い。
「美容のクオリティも日本と比べると低くて、髪を切るときにはさみを縦に入れるなんて意味がわからないっていう感じだったりもしたんですが(笑)、技術力もどんどん向上してきています。現地でずっとトップスタイリストでやってきた人が入ってきてくださったりもしているし、現地で経験を積んできた人はやっぱり上手みたいですよ」
ワクワークとNPO「ふくりび」のサロン事業は、新しい層に向けた新しいビジネスとして順調に成長を続けている。
(第三回「どんな環境でも、自分の人生は切り拓ける」へ続く)
山田 貴子(やまだ たかこ)*1985年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学非常勤講師。2009年、大学院在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立、代表を務め現在にいたる。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議の20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出され、活躍の場を広げている。
【写真:shu tokonami】