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株式会社ワクワーク・イングリッシュ 山田貴子

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写真提供:株式会社ワクワーク・イングリッシュ

自立と成長の循環を生み出すワクワークのしくみ
 
 こうして立ち上がったのが、株式会社ワクワーク・イングリッシュ。孤児院の大学生が英語講師として働いて自立することで、孤児院が新しく路上から子どもたちを引き取れるようにするというビジネスモデルが組まれている。
 
「フィリピンでは小中高までは教育は無償なんですが、大学は学費がかかります。大学生ひとり分の学費は、子ども3人分の養育費くらい。つまり、孤児院から学費をもらっている大学生が働いて自立することができれば、3人の路上の子どもたちを孤児院に引き取ることができるんです」
 
 もともとは貧困層の子どもたちをなんとかしたいと考えていた山田さんだが、2009年当時、セブ島にはすでにNGOや孤児院が400以上も存在していた。
 
「だったら、また私が一から同じように子どもたちにアプローチをするのではなくて、若者の自立を促すことで、子どもたちが教育支援を受けられるように循環するしくみをつくろうと思いました」
 
 現地のNGOや孤児院とシンポジウムを開き、困っていることを話し合うと、学費がかかるのでなかなか大学に行けない、また、人口の8割が30歳以下という非常に若い国であるフィリピンでは、知的レベルの高い労働力のニーズが低く、せっかく大学を出ても就職先がないといった課題が出てきた。
 
「そこで、みなさんが大学生までの教育支援をするのであれば、私たちは出口の部分をつくりますよっていうかたちで、協働することになりました。就業につながるスキルを身につけて大学生が自立することで、次の子どもたちにバトンを渡していくというしくみをつくることにしたんです」
 
 ワクワークの講師には2つの層がある。ひとつはNGO・孤児院から採用している大学生。彼らは基本的には日本の小中学生向けのレッスンを担当する。そして彼ら大学生講師をトレーニングする、プロの育成講師陣。日本の企業や大学向けのサービスを提供するのはこちらの層だ。
 
「ワクワークに上司と部下のような上下関係は基本的にないんですが、先輩がどうしているかを、新しく入ってきた人は自然に学びますよね。だから、孤児院出身の子たちのロールモデルになれるような人しか、プロフェッショナルの層には採用しません。どんなに英語教師の経験があっても、自分の人生に対する信念とか、情熱とか、哲学をもっていないと」
 
 歩合制でなく固定給という給料制度も、フィリピンでは珍しい。チームで最大の価値を発揮できるように互いを高め合っていけるのも、ワクワークの魅力のひとつだ。
 
「新人だとなかなか仕事がうまくいかないこともあるんですけど、それはその人の可能性を開かせてあげられない、環境を用意できていない我々の責任だから、どうするのかをみんなで考える。決してその人個人のせいにはしません。一緒に仕事をするファミリーの一員として受け入れたからには、その人の可能性を最大に開く場を一緒につくっていく責任をもつことを徹底しています」
 
 「体育会系ですよね」と、山田さんは笑う。実際、山田さん自身がライフセービングというスポーツを通して、体育会系の人間関係の中で先輩の背中を見て育ってきた経験にヒントを得た体制だという。
 
「ライフセービングは日本ではマイナーな競技ですが、『あなたは愛する人を助けることができますか?』っていうキャッチフレーズが引っ掛かって。いまの自分では大事な人がおぼれていても助けられないという思いと、私の大好きな海で悲しい思いをする人がいてほしくないという思いでライフセービングを始めました」
 
 ハードな練習をこなすかたわら、ジュニアの育成にも力を注いできた山田さんは、ライフセービングというスポーツを通じて、海面上昇などの環境問題や地球の話なども子どもたちに伝えてきた。「どう生きるか」を常に大切にし、自ら考えて動くことで人生を選び取りつつ、あとに続く者を思いやる姿勢は、姿かたちを変えながら、山田さんの生き方を一貫しているようだ。 
(第二回「チャレンジで自分と地域の未来を変える」へ続く)
 
山田 貴子(やまだ たかこ)*1985年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学非常勤講師。2009年、大学院在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立、代表を務め現在にいたる。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議の20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出され、活躍の場を広げている。
 
【写真:shu tokonami】

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