ビジネスを通じて一緒に夢を実現したい

株式会社ワクワーク・イングリッシュ 山田貴子

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写真提供:株式会社ワクワーク・イングリッシュ

支援ではなくビジネスとして
 
 そんな山田さんも、最初からオンライン英会話のシステムにたどり着いたわけではなかった。
 
「最初はスポーツを通じてなにかできないかと考えていました。国際協力や教育の現場でスポーツが果たせる役割を研究テーマに論文を書こうと思っていて。それでフィリピンを訪れては路上の子どもたちと一緒に遊んだりしていました」
 
 転機は大学4年生のときに訪れる。半年間滞在していた現地で、一緒に遊んでいた子どもの母親に怒られたのだ。
 
「『タカが子どもと遊んでいたせいで、今日食べるものがない。子どもと遊ぶなら、お金か食べ物をちょうだい』って言われたんです。それがショックで。自分がやってきたことは自己満足だったのかと。中途半端になるくらいなら、フィリピンにかかわるのはやめようと思って、一度は日本に帰ってきました」
 
 だが、どうしてもそれでは終われなかった山田さんは、現地で仲良くしていた人々とスカイプで連絡を取り合い、フィリピンの貧困問題へのアプローチを話し合った。
 
「援助とかボランティアっていうかたちじゃなくて、彼らの持っている力を使ってなにかできないか考えたかった。じゃあどうするのか、というところで、私がフィリピンの語学学校に通っていたときのディベートクラスの先生から、フィリピン人の資源は英語だって言われたんです」
 
 英語が公用語とされているフィリピンでは、テレビでも英語が流れ、小学校から授業も英語で行われるため、子どもの頃から英語を話せる人が多い。
 
「だったらスカイプを使った英会話レッスンのビジネスを始めたらどうかって。まずは試してみようということで、当時流行っていたmixiのフィリピンコミュニティに『スカイプ英会話をやりたい人はいますか?』って投げてみたんです。そうしたらすぐに反応があって、試しに簡易ウェブを立ち上げたら、ほんとうにお客さんが来てしまった」
 
 スカイプを通じた話し合いで、オンライン英会話をやってみようということが決まったのが2009年4月21日。簡易ウェブを立ち上げたのは5月の上旬だったという。思いつきのような試みだったが、1回700円という廉価な価格設定もあり、試してみたいという人は多く、山田さんは手ごたえを感じた。
 
「フィリピン人に英語を習うっていうことに難色を示す人もいたり、反対意見もあったんですけど、ビジネスモデルをブラッシュアップしたり、オンライン英会話でほんとうに子どもたちの夢を実現できるのかどうか、現地のニーズを丁寧に確認していく作業をして、9月には会社を設立しました」
 
 NPOやNGOではなく最初から株式会社として、援助や支援ではなくビジネスパートナーとして、現地とかかわっていく。その姿勢は、立ち上がりからいままで一貫している。
 
「ビジネスとして成立していれば、貧困という課題を解決した後も、事業が途絶えないですよね。だから援助ではなく、ビジネスを通じて一緒に夢を実現していくんだっていうスタンスで始めたかった。きちんとお客様に価値を提供して認めていただきながら、当たり前の社会の中のひとつのしくみとして動いていくことを目指したかったんです」
 
 NGOや孤児院は、課題を解決し、最終的には必要とされなくなることが究極の目標ともいえる。そうではなく、山田さんが目指すのは、あくまで持続可能なビジネスのかたちだ。

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