日本の農業を大きく変えたい
ドーム内部での作業の様子(写真提供:グランパ)
目指すは農業のクラウド化
被災地に導入されたグランパのドーム型植物工場は、いままでのマイナス面をプラスに変える、新しい技術の結晶である。
「従来のドームは鉄骨フレームだったので、どうしても影ができて17%ほど太陽光をロスしていました。このドームは風船のように内側から空気で膨らませているので、影ができず太陽光を目いっぱい利用できるんです」
二重に張り巡らされたフィルムにも工夫が凝らされ、外側には太陽光の透過率97%のフィルム、内側には光を拡散させるフィルムを用いている。曇りの日でも90%以上、天気がよければ100%を超える利用率となるという。
「建物の中で外と同じくらいの太陽光を使える。これはまったく珍しいしくみなんですよ。これで生産性に大きな差をつけられます。さらに、エネルギーをうまく循環させて、植物が育つ部分にだけエネルギーを使うようにするしくみを導入しています」
たとえば、東京ドームは競技の行われるグラウンドと観客席のみが空調コントロールされ、天井部分は放置されている。全体をあたためたり冷やしたりする必要がないので、その分省エネ型になる。その技術をグランパのドームにも用いているのだ。
「地下からくみ上げる水を使って水耕栽培を行っているんですが、その地下水がだいたい15度くらい。その熱をうまく使い切る工夫もしています。作業工程についても徹底的なシンプル化、効率化を図りました。そうやって一つひとつ技術を積み上げていったんです。そうすれば農業未経験者でも働けるようになりますから」
さらに、これらはコンピュータで遠隔操作され、各地に点在するドームの様子を一括管理できるようになっている。
「将来的には、栽培のクラウド化を進めたいと思っています。植物工場のハードの不具合や生産物の成長具合を管理しつつ、需要のあるところに効率的に供給していく出口戦略のしくみも合わせてつくっていく。生産の作業工程に合わせて、流通もシンプル化・効率化していくことをめざしています」
この植物工場のシステムを、ひとつの大きな産業構造として確立させ、農業による所得で生活が成り立つようにする。これだけでも大きな目標と思われるが、阿部さんはさらにその先も見据えている。