日本の農業を大きく変えたい

株式会社グランパ 社長 阿部隆昭

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若者には収入を、年配者には仕事を
 
 作物の出来不出来が天候に左右される農業は、収入源としては極めて不安定な業種だと思われる。
 
「これまでの農業所得って、そもそもが低いんですよ。だから兼業農家が多かったり、補助金でカバーしたり、農協の下で守られてきたりした。自立した農業経営ができてきたとは言えないし、発展性も感じられない仕事だったんですよね。若い人の農業離れには、そういったところにも原因があるだろうと考えています」
 
 効率よく生産し、きちんと出口戦略まで持ち込む。これまでの一次産業は、そうした産業化のしくみを作り込んでこなかったのではないかと、阿部さんは振り返る。その結果が、競争力の低下や後継者不足に表れてきているのではないだろうか。
 
「天候の影響を受けにくい植物工場で生産して、流通のしくみもきっちりつくって、二次・三次産業と同じくらいの安定収入が得られるようになれば、若い人たちも入ってくるようになるはずです。そういうところまで、農業の仕事の中身を変えていく必要があるだろうと思っています」
 
 グランパが手掛けて来ているのは、若い人たちが農業に手を挙げてもいいと思うようなしくみづくり。いま、大きな曲がり角に差し掛かっている農業に、新しい産業を興す気概で取り組んでいる。
 
「若い人にどんどん活躍してもらって、次の世代にどうつないでもらうかと考えていかないといけない。一方で、いま日本全体が高齢化しているわけですけど、高齢になると働くところがないんですよね。その点、グランパの農業は大半が腰高でできる軽作業なんです。だから、60歳を過ぎても働ける」
 
 グランパファームで働く人々は、若い人が3割程度。7割が40代後半から50代だが、中には60歳を超えた人もいるという。
 
「定年制もなくしてね、体力の続く限り働けばいい。1日8時間は無理でも3時間くらいなら働けるっていうなら、3時間のローテーションを組めばいいわけじゃないですか。そういうしくみも、グランパならできるんです」
 
 さらに阿部さんの発想がユニークなのは、従来とは逆転した職場構造だ。
 
「経営は若い人にやってもらって、現場で働くのは年をとった人たち。若い人たちには儲かるしくみを作り込んでしっかり生計を立ててもらって、年配の人たちが現場を支えていく、というしくみを考えています。年金だけでは食べていけないだろうし、体を動かすことは健康にもいいから、若い人と一緒に働いて生活の足しにしてもらえたらいい」
 
 ビジネスモデルを確立しつつ、若者も年配者も共存共栄する社会を職場からつくり出す。農業ならそれができると、阿部さんは胸を張る。
 
「私は日本の農業を大きく変えたいと思っているんです。いまやっている技術を世界一のレベルまで高めて、日本の農業を輸出産業に変える。生産物だけじゃなくて、技術の輸出もできるというところをめざしていきたいですね。まだ道半ばですが、ぜったいあきらめないで、答えが出るまでやり続けます」
 
 高い志と、高い技術力に裏打ちされた新しい農業のかたち。さらに、被災地での取り組みによって新しい気づきを得て、世界に羽ばたいていく日が来るのではないだろうか。いや、阿部さんの目には、その時がくっきりと見えているに違いない。
 
 
 
阿部隆昭(あべ たかあき)*1943年、青森市生まれ。大学卒業後、青森銀行に入行。50歳で退職。2004年に株式会社グランパを設立し、代表取締役に就任。
 
【写真:shu tokonami】

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