非常時に機能できる平常時のしくみを
遠野まごころネット理事長 多田一彦
自立に必要なのは、社会的環境「衣食住+業」
被災者同士の交流の場として設けられた「まごころ広場」もプロジェクトのひとつだ。
「仮設の論理とか避難所の論理ではなくて、その間をつないで人が出会うような、コンパクトだが広がる可能性のあるコミュニティのかたちを、避難所の外につくらなくちゃいけないと思ったんです」
大槌町の一番大きな仮設住宅地の間につくられた「まごころ広場」は、地元の人々が集まるコミュニティとしてだけでなく、いまでは雇用創出の場としても機能している。
「まごころ広場では被災者が被災者をケアすることが大切だと考えて、ボランティアの数を徐々に減らしていったんです。最後はボランティアがひとりだけで、地元のおばちゃんたちで運営してもらいました。いまでは独立して社団法人となり、お弁当屋さんをやっています」
衣食住に加えて、生活の礎となる「業」がなければ自立はなし得ない。コミュニティ形成と産業育成を結びつけ、売り上げと雇用を拡大することが喫緊の課題だ。
「この地域の特徴からすると、一次産業と就労支援を結びつけて考えることも必要です。たとえば、就労支援センターで三陸の食材を活用した海鮮餃子をつくって販売もしています。農林水産省からは六次産業認定を受けました」
この海鮮餃子はイオンでの販売を前提に、イオンと共同でレシピを開発した。
「生産者と流通業を直接つないでしまったほうが、地域経済がよく回るんですよ。販路を持つものは強い。だから、販路を確保したうえでレシピ開発に努めました。イオンさんも多大な協力をしてくれています」
こうした取り組みは、ともすれば行政からの支援頼みになってしまいがちだ。だが、「平常時に機能しないものは非常時にも機能しない」と多田さんは言う。非常事態に備えるには、当たり前になっている価値観も見直す必要もある。
「行政に民間感覚を、ってよく言うんだけど、一方的に行政に依存していたら、やっぱりだめなんですよね。民間も行政感覚を持つ必要があります。良い意味での官の意識をもたないといけない。“お互いさま”の意識をもって、それぞれにやれることをやりながら、制度やシステムを一緒に作り上げていかないといけないんです」
遠野市や盛岡市、北上市の後方支援の取り組みを参考にしようという動きは全国に広がりつつあるが、外部連携や広域的に連携するしくみを同時に入れておかなければ、いざとなったときにできる対応は限られてしまうのではないか。まごころネットの取り組みは、多くの示唆に満ちている。