非常時に機能できる平常時のしくみを

NPO遠野まごころネット 理事長 多田一彦

図2
写真提供:遠野まごころネット

ポイントは「少しはみ出させること」
 
 著しい支援のアンバランスを解消するには、モノや人を一旦集約し、効率よく被災地に振り向けなくてはいけない。それが「遠野まごころネット」の立ち上げにつながった。
 
「ニーズの把握や物資の配布もそうだし、現場も混乱していて、まったく統率がとれていませんでした。現地を知らない個人ボランティアが入ってはいけない場所に入り込んでしまって、かえって支援活動の妨げになっているようなことも起きていたんです。だから人や物資を一旦集めて、適切に再編して被災地に割り振ることが重要だと思ったんです」
 
 シャワー・トイレ完備の宿泊施設や送迎バスを用意するなど、サポート体制を整えた。また、多田さんは瓦礫撤去や物資支援などの緊急支援ではなく、早い段階から「復興」支援を明確に打ち出した。
 
「瓦礫は片付ければ必ずなくなるわけですから、そこが目標ではない、そこで気持ちが途切れるのがいちばん怖かったんですよ。ほんとうの支援は瓦礫を撤去してから始まる。まだ始まりにも立っていないんだということ、もう復興に向かっているんだと言うことを2011年5月にビジョンとして見えるようにしました」
 
 すると、それぞれに得意な分野をもった団体が手を挙げてくる。そこに、遠野まごころネットに集まっている個人ボランティアを加えてもらい、現地に入ってもらった。
 
「バラバラに取り組むのではなしに、ビジョンを示す。そうすれば、ある程度一定方向にみんなが動いてくれる。その状態まで持っていければ、修正をかけながら前に進んでいける。違う意見があればどんどん出してね、と言って、人や能力を最大限に生かせるようにしました」
 
 ボランティア同士の連携のかたちをつくっていく中で多田さんが大事にしたのは、「目的に対して手をつなぐのであって、立っている位置でつなぐんじゃない」ということだった。
 
「私たちの中に『こうでなければならない』というかたちは一切ないんです。自分たちがいいと思った支援活動に、立ち位置にこだわらず自由に動いてもらう。それを軌道修正しながら進んでいく、というかたちを大事にしていました」
 
 公平性を重視する行政は、枠組みを逸脱する動きを避けたがる傾向がある。だが、多田さんは逆だった。
 
「ポイントは、少し『はみ出させる』ということ。アンテナです。少しはみ出した部分がないと、次のヒントが見えてこないんですよ。はみ出したり飛び出したりしたところが良い取り組みなら、さっと人やサポートをつけてあげれば、そちらが主流になったりもします」
 
 そうやって遠野まごころネットでは、瓦礫撤去や被災者の心のケア、避難所のコミュニティづくりなど、さまざまな支援プロジェクトを展開してきた。

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