漁業を張り合いがあって楽しい仕事に

桃浦かき生産者合同会社 代表社員 大山勝幸

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かき剥き場の傍で建設が進められている加工場

漁業の古い体質が立ちはだかる
 
 県から特区構想への協力を打診された仙台水産の島貫会長は、桃浦の現状や漁師たちの思いに触れ、手をさしのべることを決めた。
 
「漁師さんの生産なくして我々の商品なし。本気になって宮城の漁業の復興をお手伝いしないといけない。これは、私たち自身の問題なんですよ。それが漁師さんの所得向上や、後継者確保とか村落復興の願いにつながっていけば、これほどうれしいことはないですね。本業を通じて社会貢献できるって、いちばんじゃないですか」
 
 だが、民間企業に漁業権を付与するという特区構想への反対は猛烈なものだった。
 
「漁業権を手に入れたら、すぐに中国へ売り渡すつもりだろう、なんて言われたりね。まあほんとうに大変でしたね」
 
 社員となる漁師は個人組合員として引き続き漁協に籍を置き、新会社は法人として漁協に加盟するかたちで漁業権問題は一旦落ち着く。すると今度は、施設整備ですったもんだする。
 
「ISO22000やHACCPに対応した加工場を造ろうと。漁港近くの民有地すべてに建築規制がかかっているので、早期復興のために公共用地の漁港施設用地に建てたいと申し出たら、そこに漁協以外の者の施設を建設するのは前例がないというんです。結局、申請から許可を得るまで半年ちょっとかかりました」
 
 いざ新しいものをと勢い込んでも、古くからの枠組みが至るところで立ちはだかった。
 
「航路の問題や、漁場の問題、区割りの問題。一つひとつが戦いの連続でしたね。たしかに法や条文に定めがない場合は慣習によるところはあるけれど、それを突破するための特区だろうに。あまりにも前例に縛られすぎですよね、この漁業の世界は」
 
 漁協との対立の構図を、おもしろおかしくメディアに取り上げられもした。だが、日本の漁業の成長を第一に考えるべきだと、仙台水産の鈴木専務も言う。
 
「日本の漁業は時代に取り残されています。ほかの業界では、もう何十年も前からグローバル化して、世界各国の商品と競争してきていますよね。だけど、日本の漁業は閉鎖的なところがあって、流通や加工の人間が口を出すことも難しかった。結果として、激変している消費者ニーズや世界各国の水産事情の変化に、まったく対応できていないのではないでしょうか」
 
 桃浦から、新しい漁業をつくり出す。その思いは、漁師と卸売事業者の間を結び、世界を視野に入れながら動き始めた。

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