憲法は社会の変化にどう応えるべきか グランドデザインを展望する(後編)

曽我部真裕(京都大学大学院法学研究科教授、憲法・情報法)&上田健介(上智大学法学部教授、憲法・統治機構)&大屋雄裕(慶應義塾大学法学部教授、法哲学)&亀井善太郎(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

3.最後に、読者へのメッセージをお願いします
 
■国民一人ひとりが関心を持ち憲法論に関わり続けることが大事

曽我部 1つめは、憲法は9条とか、緊急事態とかといったある意味でおどろおどろしい話ばかりではなくて、多様な人びとがそれぞれ、「自分らしく生きることができる基盤」に係わるものだということを広く知っていただきたいですね。2つは、今日の対談でも幾度と出てきた「グランドデザイン」ということですね。憲法は、みんなに関わるものだということ。そうであるからこそ、皆さんも関心を持って、関わっていっていただきたいということをお伝えしたいと思います。
 
上田 憲法典を変える、変えないというのは、大屋さんの比喩をお借りすれば仏を作るということが、大事なのは魂を入れることだと思います。形が変わらずとも、魂の込め方、中身を議論し、考え続けること自体にすごく意味があるし、それがどこかのタイミングで形にも繋がっていくと思います。憲法改正を巡る一般の議論とは真逆のアプローチかもしれませんが、そういう論じ方が憲法についてもできることをこの報告書で感じてもらえたら嬉しいですね。
 
大屋 私が一番強調したいのは結局、法律は1つのプロセスだということです。立法を投げ込んだら社会にリアクションが起きるわけで、それをモニターして、改革するなり何なりしなければならない。一旦作ってしまえば終わりで、その通り社会が動くというものではないのです。
 
だから、法律は生き物で継続したプロセスなのです。最近、アジャイルガバナンスという言葉が流行っていますが、この一番の教訓はモニターするということだと思います。何が社会に起きているかを調べ、知らなければ、きちんとした改革に結びつけることはできない。そうした魂の込め方を、法哲学者である私が話しているのは何なのかと思う人もいるでしょうが、実は、立法とモニターの両面が揃わないと、法律は何もできないということを物語っているのです。
 
亀井 同感です。あいかわらず、〇〇分野に〇億円といった投入額の大きさばかりを競い合う政治家も多いですが、政策課題にどのような望ましい具体的な変化をもたらすのか、そのために何をすべきかといったインパクト、アウトカム志向を持って政策立案に臨む政治家や官僚も増えてきています。そもそも、社会に応じつつ、ありたい未来をつくる政治の役割はきわめて難しいものですが、そうした難しさを前提に、インテレクチャルな力を駆使して、立案段階でしっかりと仮説を立てながら、一旦社会に投げてみてモニタリングしていく。そして、その反応を見て、必要な改善を加える。そうしたプロセスをしっかりと回していくことが求められます。
 
私自身、いま、政府内で取り組んでいるアジャイル型政策形成も同じです。こうした考え方、行動の仕方は、憲法も同じなのかもしれません。そもそも憲法課題は、より良い生き方ができる、自己実現ができるようにするために、一人ひとりに必要で密接なものです。それは憲法何条に書き込むという話だけではないということが、今日の話の肝だったと思います。
 
今日のお話を通じて改めて、『憲法論3.0』の「はじめに」に記した「変えるか/変えないか、といった二元論ではなく、また、政治家や一部の専門家だけに委ねるべきでなく、幅広い国民全体の議論として、分厚い憲法論を興していかねばならない」という言葉のように、地道にきちんと憲法論に向き合っていくことが、とても大事だという思いを強くしました。今日はそれぞれに貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。
 
前編を読む2022年9月2日掲載
 

【関連報告書】

【提言報告書】PHP「憲法」研究会『憲法論3.0 令和の時代の「この国のかたち」』

BOOK1_2

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政策シンクタンクPHP総研

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