道州制の実現には「本気」の取り組みが欠かせない
荒田:松下幸之助は廃県置州を語る際に、当初は「小を大へ」といっていた。経済成長や交通網の整備で手狭になった都道府県の枠組みを大きくすべきという主旨である。しかし、その後、「大を小へ」こそが道州制の本質であるとした。肥大化した中央政府の仕事を大胆に地方に移すべきであるというのである。これは今日道州制を考える際にも妥当であると思う。私がそう考える理由は「日本は広い」からである。日本列島は南北3000キロ近く、北海道のオホーツク海には流氷が訪れ、南の沖縄にはサンゴ礁がある。一つの国の中で、流氷とサンゴ礁が見れる国が世界にどれだけあるか。そこから生じる多様性を生かすために道州制がふさわしいと考えている。
永久:今の中央集権あるいは都道府県制度はなぜダメなのか。今のままで分権を進めれば良いという意見もあるが、それでは上手くいかないのか。
松沢:神奈川県知事として国の仕事を受け入れる受け皿づくりに取り組んだ。当時、「首都圏サミット」という取り組みがあったが、トップが年に一回集まるだけだった。それを発展させて「首都圏連合」にして様々な問題提起をした。ディーゼル車の排出ガス規制は1都3県で共通の条例をつくって、首都圏の空をきれいにすることができた。東京湾の水質規制にも取り組んだが、各県の事情が複雑でうまく進まなかった。他にも紹介したい話題がたくさんあるが、地域の経済圏や環境圏にあわせた広域行政の単位をつくることが道州制だと思っている。
身近な市町村で自己決定できるようにするのが先決
宮島:まず、身近な市町村で自分たちのことを自分たちで決めることができるというのが先で、市町村ではできない時に道州という順番ではないか。今は、社会保障や待機児童などの問題を見ていても、国が決めていることが多すぎる。都市と地方であまりに状況が違うのに、同じルールでやってもうまく行かない。医療も全国一律で縛られている。道路をみても国の補助金があるから一車線で良いのに二車線になったというようなことが起こっている。住民の暮らしを変えるためには、市町村についても考え直すべき。
藤村:これまでは「一つの日本」という観点から全国に一日交通圏を形成することが国土計画の主眼だった。それが、阪神や東日本の大震災を経験する中から、自律分散型の国土にすることの重要性が意識されるようになった。それを制度論に当てはめると道州制ということになるのではないか。いわば「複数の日本」という観点であるが、JRに限らずトヨタの拠点立地を見ても、民間企業が先行して、国の制度が後追いしている感じがする。