なぜ今データ基本権が必要か 情報とプライバシーの未来<2>

山本龍彦(慶應義塾大学法科大学院教授)&宮田裕章(慶應義塾大学医学部教授)&亀井善太郎(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

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4.多様性に寄り添う社会に要となる「データポータビリティー」

山本 宮田さんが著書で示されている「多層的民主主義」という概念も、キーになってくるでしょう。テクノロジーによって、社会の多元的な価値が捕捉されるようになってきたわけです。そもそも、何が善い生き方か、という大きな価値観、大きな物語を社会で共有できなくなってきている。そうすると、コミュニティーによって何が社会的な善なのかが違ってきてもおかしくない。それをそれぞれのコミュニティーにおいて、例えば「信用スコア」や地域通貨という形で実現していく。仮に、自分が属しているコミュニティーの価値観がもう嫌だと思えば、データポータビリティーを使って別の価値観を実現しているコミュニティーに移ることもありうる。そうすると、国家において基盤となる価値観はそんなに分厚くなくてもよくなります。従来のように、大きな物語の共有を前提とした国家ではなく、それぞれのコミュニティーがそれぞれに一定の価値軸を持っていて、その価値をコミュニティー間で切磋琢磨して、サステナブルな社会を洗練させていく。「多層的民主主義」というキーワードからは、そんな未来像が見えてきます。
 
宮田 今のテクノロジーの中でできるのは、多様性に寄り添うこと。多様なものを多様なままに取り扱うことが、技術の進歩により、できるようになってきているわけです。そうなってくると、地方が大都市の後追いをする必要は全くなくなる。メガトレンドに左右されることなく、新しい最先端の価値軸を構築できるかもしれない。牧歌的な田舎であっても、他所にはない魅力的な、最先端の町というものも出てくると思います。
 
山本 そうした多様な価値軸を担保するのが、「データポータビリティー」という権利になるでしょうね。自分の情報を管理して、必要によっては「移動させられる」権利です。暑苦しいビジョンを持つコミュニティーに絡め取られるのではなく、自分の情報は自分で管理しながら、コミュニティー間を容易に移動できる自由ですね。
 
亀井 「新しい中世(ルネッサンス)」ですよね。
 
山本 ルネッサンスに単純に逆戻りするんじゃなくて、「データポータビリティー」によって移動の自由が保障されているというところが、中世との重要な違いになってくるのだと思います。
 
宮田 そうですね。国家をまたぐ形でのコミュニティー形成も十分に可能になる。そういう意味でも、情報の扱いを自分で決められる自己決定権は、個が響き合い、人々の「生きる」をつなぎ合わせていくための中核概念になっていくと私は考えています。
 
(前編を読む)
【写真:まるやゆういち】

 

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