最も重大な外交課題となった中国

政策シンクタンクPHP総研 主任研究員 前田宏子

日本人からすれば、その力の使い方や行動に問題があるということになるが、中国側のこのような不満も無視すべきではないだろう。台頭する中国のパワーが、中国の国益のためだけではなく、地域の安定にも有益とみなされるようになるために、どのような行動が望まれるのか、どのような秩序ができるのか、ともに長期的視野をもって構想していくべきである。
 
それでも強固な、人と人の関係
 
 最後に、日中政治関係の緊張が続く中で、それでも多くの人が互いの国で働き、勉強を続けている。中国人の来日者数は残念ながら減少しているようであるが、たとえば日本側で村上春樹氏が懸念したような、中華文化を排斥する動きは起こらなかった。日中関係に関するメディアの報道の在り方や、ネット上における偏狭な発言が問題視されることが多い昨今だが、これほどの政治状況の悪化にも左右されない人々の紐帯が存在するというのも、日中関係の現実である。そのような点からも、相互の国民の理解を深めるための文化交流や交流事業は、日中間の政治環境に関わらず継続していく必要があり、中国側にも理解と同意を求めていくことが必要だろう。
 
 中国の中にも、現在の中国外交のあり方について懸念を抱く人々は、もちろん存在する。そして、より多くの、実際のところ政治や外交にそれほど関心を抱いていない中国人も存在する。残念ながら、今は強硬な姿勢を支持するアクターや利益団体の声が、外交政策に反映されやすくなっているが、長期的には、中国国内の国際協調派を大切にし、政治にあまり関心のない人々の対日関心を高める地道な努力を続けることが、日中関係の安定と発展に役立つはずである。
以上
 
(注1)1990年代初め、鄧小平が示した外交方針を表すキーワード。姿勢を低く保ち、能力を蓄えるの意。他国(特にアメリカ)との対立を避け、国際社会において頭角を現そうとせず、経済や国内政治社会の発展をまず優先させるという方針。

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