最も重大な外交課題となった中国
日米同盟以外に、インド、オーストラリア、韓国、ASEAN諸国などとの安全保障協力の推進も重要である。ただし、その際に日本政府は、他国の人々の対中観や個別に抱える利益と問題に、十分な配慮を払わなければならない。日本人がいま感じている対中脅威感を、他国の人々も同じように感じているはずと無意識に信じこむのは、日本の政策に対する支持を弱めることにつながりかねない。これらの安全保障協力の目的の一つが、中国の単独的な行動をけん制することにあるのは明白だが、中国を封じ込めようとしているのではなく、中国が諸国と協調しつつ地域の安定を図るつもりなら、このような安全保障協力に中国が加わることも歓迎するという姿勢を同時に示すべきである。
また、日本はアジア太平洋地域にルールに基づいた秩序を築くため、積極的な外交を推進するべきである。南シナ海における強制力をもつ「行動規範」の策定へ向け、中国とASEAN諸国が公式協議を始めることで合意したのは一定の前進だが、重要なのは、実際にそのようなルールが策定され運用されることである。中国がどの程度、真摯に取り組むつもりなのかを見極める必要がある。
尖閣問題について日中の政治関係は冷え込んだ状況が続いているが、この問題を含む東シナ海の秩序と安定について、日中は話し合わなければならないだろう。しかし、中国との関係改善については、中国の不当な力の行使に日本が屈したという誤ったシグナルを与えないよう、慌てず、日中間で建設的な対話ができる時機を待つべきである。逆に、急がなければならないのは、日中間の武力衝突を防ぎ、万が一衝突が起こってしまったときにエスカレーションを防ぐための危機管理メカニズム構築であり、実務レベルでの協議は進められなければならない。
安倍政権は、今後日本の安全保障強化のため、さまざまな政策を講じていくと推測されるが、その際には事実に基づく説得力のある発信で、国際世論を味方につけることも重要である。英語による発信の強化、外国人も使用しやすい文献やデータベースを充実していくことが望まれる。歴史問題は政治から切り離し、外交の焦点とするのを避けるべきである。
今はまだ機が熟していないだろうが、日中関係が少し安定した際には、台頭する中国の軍事力が地域の安定に役立つようにするために、どのような秩序をこの地域に構築するのが望ましいのか、中国やアメリカと対話を深めていくべきである。中国人がしばしば口にする不満が、「アメリカの軍事力には文句を言わないのに、なぜ中国が少し台頭してくると、脅威と非難されるのか。国力が上がれば、当然軍事力も大きくなる」というものである。