最も重大な外交課題となった中国
アメリカのオバマ政権は、政権発足時から対中融和路線を取っていたにもかかわらず、2009年秋のオバマ訪中時の対応や、台湾への武器売却に対する中国の反応は非常に強硬であった。さらに、南シナ海や東シナ海における中国の海洋行動が、周辺国との摩擦を生じさせ、地域の緊張を高めるようになっている。
「覇権的な大国」になると断定するのは早計
中国が現在とっている対外姿勢は憂慮すべきもので、警戒心をもって今後の動向を注視しなければならないが、中国が必ず「覇権的な大国」になると断定するのは早計である。中国がグローバルに影響を及ぼす大国となったのは紛れもない現実だが、その経済成長のスピードに目がくらんだ人々は、中国の実力を過大視し、国内に抱える問題や置かれている状況を楽観視しすぎる傾向がある。
中国が直面する深刻な問題の一つが、「未富先老」という問題である。これは、社会が十分に豊かになっていないうちに、労働人口減少が始まってしまい、高齢化社会に突入してしまうという状況を指す。中国のGDPは世界第2位になり、都市部の人々の経済水準は相当上がったが、一人当たりのGDPは6000ドルに過ぎず、医療や年金などの社会保障制度も十分に発達していない。これは、日本やアジアの四龍といわれた国々が人口減少の局面に入ったときよりもずっと低い水準である。
今は高い経済成長で自信にあふれる中国の人々も、しばらくすれば、中国人の平和と繁栄にとっての問題は、国外ではなく国内に存在するという事実に目を向ける冷静さを取り戻すかもしれない。80年代、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本がもてはやされた時代、日本にもやはり傲慢な言説が登場した。日本には軍事大国になりたいという意図も希望も存在せず、その点は中国と大きく異なるが、いまの中国の人々も、自信が行き過ぎて傲慢になっている部分があるのだろう。
そして傲慢さは、中国外交に従来備わっていたはずの賢明さと冷静さを損なうことにつながっている。周辺を多くの隣国に囲まれている中国にとって、強硬な外交は、いっとき中国を有利に立たせるように見えても、周辺諸国の対中警戒感を煽ることになり、結局は中国の安全保障環境を悪化させることにつながるというのは、過去、中国人自身が繰り返し述べていたことなのである。
中国が主張し始めた「新しい大国関係」とは
自信を深めた中国が、最近アメリカに提示しているのが「新しい大国関係」である。習近平はまだ副国家主席だったときからこの用語を使っていたが、国家主席に就任して以降、中国政府は大々的にこの言葉を喧伝するようになった。中国側は、この言葉は「米中関係がウィンウィンの関係であり」、「新興大国が台頭するとき、既存の大国と必ず衝突するというセオリーを米中は繰り返さない」という意味なのだと説明する。しかし、中国指導者らの発言などからは、米中を二つの覇権国ととらえ、覇権国間で協調ができれば、他の周辺国との問題は自動的に解決すると思っている様子、また、自国の勢力圏(南シナ海や東シナ海)の出来事について、アメリカは干渉するべきでないということを要求し、同意を求めようとする意図が読み取れる。