最も重大な外交課題となった中国

政策シンクタンクPHP総研 主任研究員 前田宏子

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 しかし、このようなイメージが現実のものとなる可能性は小さい。20年、30年後、中国は地域で最も大きなパワーになっているだろうが、思うままに覇権を揮えるような卓越した唯一のパワーにはなっているわけではない。成長しているのは中国だけではないのである。インドやインドネシア、ベトナムなど東南アジア諸国も成長し、もちろん日本も相対的な経済力は低下しているとはいえ、覇権に抵抗する意思を保てるだけの国力は維持しているだろう。
 
「偉大な中華民族の復興の実現」をめざすチャイナ・ドリーム
 
 「新しい大国関係」とあわせて、最近、中国政府関係者がよく言及するのが“夢”の話である。これは、習近平政権が「中国の夢」というスローガンを掲げていることと関連していると推測される。たとえば2013年6月の米中首脳会談、7月の米中戦略・経済対話で、それぞれ習近平国家主席と楊潔チ国務委員が「中国もアメリカもともに“夢”がある国である。中国の夢とアメリカの夢には共通点がある」と述べた。
 
 しかし、アメリカン・ドリームとチャイナ・ドリームは意味するものが違う。高木誠一郎教授が指摘するように、アメリカン・ドリームは個人が努力し成功をつかむこと、またそれを可能にするアメリカの自由な気風を讃えるものである。チャイナ・ドリームは、具体的に何を指しているのかよく分からない部分があるが、少なくとも「偉大な中華民族の復興の実現」という言葉から解釈できるのは、民族や国家の威信を強調するものだということであり、個人の自由と夢を讃えるアメリカン・ドリームとは異なる。またアメリカン・ドリームはアメリカ内で達成するものだが、チャイナ・ドリームは対外的に拡張するもので、この点でもまったく異なる。
 
 中国の中には、近代以降の中国の歴史を屈辱の歴史ととらえ、“奪われたもの”を取り返さなければならないという思いに捕らわれている人々がいるが、“奪われたもの”が具体的に何を指すのかは往々にして曖昧である。さらに、そのような人たちの多くが、不公平で矛盾に満ちていると批判する現在の国際秩序システム-東アジア地域の国々が安定と平和を享受してきた―の恩恵を受けて、中国自身も経済成長を達成してきたという事実を無視している。
 
 尖閣問題について、中国は「日本が第二次大戦後の国際秩序を壊そうとしている」と批判するが、日本側に、平和と安定を供給してきた現存の秩序を壊さなければならない理由など存在しない。自らも受益者でありながら、アメリカが軸となっている既存の秩序に不満を抱いているのは中国の方である。現存の秩序を力によって変更しようとし、他の国々が納得できるような新しい国際秩序像を示すわけでもない――中国の台頭がなぜ脅威と見られるのかは、まさに中国のそのような行動に由来するのである。
 
安倍政権がとるべき政策とは
 
 中国が現状、尖閣周辺に船舶を送り続けるなど、「平和的台頭」とは矛盾する危険な兆候を見せている以上、日本が領土を防衛し、中国の挑発的行動を抑制するための対策に力を入れるのは当然である。日米同盟の維持と強化が日本の安全保障政策にとって極めて重要である状況に変わりはない。集団的自衛権の解釈の変更を含め、限られた防衛予算で柔軟かつ効率的な自衛隊の運用や武器の調達を実現していくための見直しが必要である。そして、安全保障政策の充実や防衛能力の強化を推進するにあたっては、日本が攻撃的な対応をしているという誤解を招かないようにするため、国際社会に対する説明を怠らず、日本が平和国家としての道を歩んでいく方針に変わりはないことを示し続けなければならない。
 

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