人間味の深いプラットホームにできるかが鍵に
2.多久市をオープンイノベーションのラボに
藤井 失礼な言い方ですが、私、多久市って最初どこだか知らなかったんです(笑)。
でも、武雄の近くなんだと。前の市長がいろんなことをやられて、「武雄って何か新しいらしいぞ」って、いろんな人が視察などで行ったわけじゃないですか。私もそのうちの一人でしたが、武雄に思わず行っちゃったんですね。オープンデータ政策で有名な鯖江市も同じで、一時期、オープンデータ関係者の聖地みたいになって相当ブランディングに寄与しました。
多久市が横尾市長のリーダーシップによって、新しいオープンイノベーション型の経済、例えばクラウドソーシングに限らず、アートフェスだとか、コワーキングスペースだとかのその他の参加型経済活動も取り込んで、新しい試みをやっているおもしろい地域だというふうに多久市をブランディングできれば、「ここのまち何かおもしろい」って、それ自体で人が来るんだと思います。
横尾 そこは本当に感じるところです。今回、シェアリングエコノミー協会にもお願いしているのは、いくつかのことを実験的にやっているのではなくて、やれる可能性があるのはトータルで全部やるというぐらいのつもりでいます。
アートについては、今おもしろい動きがあります。有志の若い人たちがウォールアートを始めたのです。今、16枚描いています。お店とか建物の壁に。目標は100枚といっています。いろいろなアーティストが参加しています。やっているアーティストには定住プログラムで多久に来た人もいるのです。たまたま来て、そういう新たな創作を始めています。
オープンデータなんかも、役所のデータをどんどん公開して、守秘義務の部分は仕方ないですが、使えるものは活用できるようにしていく。そして、民間が使ったらもっとマネジメントよくなるじゃないと感じます。ある意味で実験場のような、ラボのような感じでやっていけたらいいなと思います。
藤井 そうですね。参加型アートとかオープンデータはシェアリングエコノミーの定義からは外れるけれども、隣にいる“いとこ”みたいなものじゃないですか。いわゆるオープンイノベーションという文脈では全部つながっているから、そういうのを全部多久市に持ってきたらいいですよ。
例えば、シェアリングエコノミー×オープンデータで何ができるかというと、ライドシェアをやっている会社というのは、そのまちの交通利用データをたくさん持っているわけじゃないですか。どこで人が乗るかとか、何曜日にこの道が混むだとかっていうのを。そこを市が企業に協力して便宜を図る代わりに市の側にデータをシェアしてもらって、市のほうも、市が持っている公共交通などのデータを出せばいい。
行政が持っているインフラデータと、シェアリングエコノミー企業が持っている利用状況データをシェアしてもらって、場合によってコードフォージャパンみたいなシビックハッカーたちの協力も得て、公共サービスの改善を図るとか。アメリカでは議論が始まりつつありますが、これができている自治体って日本ではまだないと思うんです。
横尾 まだないチャレンジといえば、個人の健康記録について、共済、国保、健保といろんな保険がありますね。これらのデータを1つに集めて、電子化する実験を4月から立ち上げます。また、生まれた時の乳幼児健診、小学校、中学校の学校保健に関する健診、成人以降の会社か団体、国保かの健診、これらは縦に切られてつながってないのです。
それを全部つないで個人に活用できるようにあげましょうと。自分が過去にさかのぼって既往症がわかるとか。そうすると、個人としてもいいですね。将来の先進医療を受ける時も基礎データがあったほうが、ドクターが判断しやすい。ところがデータがないのですよ、日本では。これも春から実験をはじめます。今はちょうど過渡期なので、そういうトライアルをどんどんしようとしています。
藤井 オープンデータやデータシェアリングは、シェアリングエコノミーそのものとは違うのかもしれないけれども、全部つなげて、全部多久市に持ってきたら、視察もいっぱい来るだろうし、先進的な取り組みはメディアにも出るでしょう。