ピンチをチャンスに変えるためには

北川正恭(元三重県知事)×上村崇(京都府議会議員)×熊谷哲(PHP総研主席研究員)

 3月26日に10道県の知事選挙が告示され、第18回となる統一地方選がスタートした。4月3日からは都道府県議選・政令市議選からなる前半戦が始まり、いよいよ選挙本番に突入した感がある。
 
 振り返れば、2014年は地方議会にとって逆風の一年だった。号泣会見、セクハラやじ、危険ドラッグ、ネットトラブル、選挙違反、そして不適切な政務活動費の数々。「トンデモ地方議員」たちのあきれた実態は世間に不信感をつのらせ、こんな地方議会なら不要という意見が六割を超える事態にまで至っている。
 
 しかし、地方議会の現場に目を向けると、新しい議会や議員のあり方を確立しようと、懸命に奮闘する議員が少なからず存在する。北川正恭・元三重県知事の提唱したマニフェスト運動に共鳴し、政策を競い合う「善政競争」や議会改革、マニフェスト大賞などに精力的に取り組んでいるローカルマニフェスト推進地方議員連盟(LM地議連)が、その代表格だ。
 
 そこで、今回の統一地方選挙の意義とそこで問われるべきもの、さらに今後の地方議会および議員のあり方について、北川正恭氏(元三重県知事)と、LM地議連の共同代表を務める上村崇氏(京都府議会議員)、LM地議連OBでもある熊谷哲(PHP総研主席研究員)の3人が語り合った。

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北川正恭氏(元三重県知事)

生まれ変わろうとしている地方議会
 
熊谷 昨年は兵庫県議や東京都議などのように、悪い意味で世間から注目される議員が続出しました。今なお、こうした議員が出てくる背景や事情があるのでしょうか。
 
北川 地域のつながりが薄くなってきて、政党も少し影が薄くなってきて、地域や組織の瀬踏みなしに議員になったという、時代の移り変わりの狭間に出てきた現象ではないかなと思います。むしろ逆説的ですが、議会の大切さをわかっているからこそ、ああいった問題がクローズアップされて、全国ニュースになったという、そういう面もあると思いますよ。
 
熊谷 2000年の地方分権一括法以降、議会の構成もだいぶ変わったように思います。その意味では、議会が生まれ変わっている過渡期という感じでしょうか。
 
北川 それも一面ですが、新しい社会の秩序をつくっていく時の未整備なところがやはりある。例えば、イギリスであれば、新人が出る時には政党がまず能力評価をして、その次に身辺調査をやり、さらにその次に地元での選考を経て候補者が決まります。日本でも、そういう仕組みも整えていかなければいけません。
 
上村 好々爺のような「地域の代表」というベテラン議員が引退される一方で、新しいタイプの議員が増えているのは間違いありません。いい悪いは別にして、旧態依然とした議会の慣習は通用しなくなって、ある意味で無秩序なところが広がっている。もちろん、供給側の政党にも問題があると思います。
 
熊谷 例えば、議長選挙でもめて議長が会派をやめたとか、議長の辞職勧告が可決されたけれども居座っているという話題もありました。猿山のボス争と言ったら猿に失礼かもしれませんが、こういうことが起きるあたりは古い体質を引きずっているのでしょうか。
 
北川 これは明らかに中央集権体制のなごりですね。以前は、首長や執行部は住民ではなく東京に目が向いていて、そういう時代の議会は首長と一緒に与党になって東京へ陳情に行こうというのが当たり前だったのですよ。だから、言論の府とか議決機関という自覚はさらさらなくて、議長争奪戦が会派の存在意義になってしまっていたんです。
 
上村 確かに。古き良き時代というと語弊がありますが、今でもそういう思考から離れられないところも少なくないですね。
 
北川 2000年の地方分権一括法の一番大きな要素は、機関委任事務の全廃、そして首長と議会という二元代表の位置づけが明確になったことですね。そこで、上村代表などと一緒に政策で仲間を募って運動を展開して、いわゆるチェック機関だけではなく、政策立案や条例制定を活発に行っていくという動きが相当出てきました。そういうところからすると、熊谷さんの捉え方は後ろ向きで、ちょっと暗いな(笑)。
 
熊谷 そんなつもりはないのですよ(苦笑)。世間からはそう見られがちだ、というだけで。
 
北川 独任制の執行部もだめな時があるから、そこを議会が正したり民意を反映したりしていくという流れは、むしろ強くなってきたと思いますよ。それと対比するから、余計にああいう問題がクローズアップされる。
 
上村 地方議会が注目を浴びるという意味では、プラスとマイナスの両方だからいいんですね。「だから議会はダメだ」ではなく、あくまでひとつの側面でしかない。
 
北川 そうそう、昔はもっと悪いところがいっぱいあったんですから。だから、あのような「いかがなものか」という例が出てきた今を捉えて、議会が本気で改革をしないといけない。住民が納得して、満足する改革を本質的に進める新しい時代を迎えているのだと思いますね。
 
熊谷 北川先生が改革に燃えている議員さんたちを前にお話される時には、いつも「あなたたちは変わり者だ」と切り出されるじゃないですか。
 
上村 異端児とか(笑)。
 
熊谷 そういう人たちが変わり者だと見られなくなった時が、世の中が大きく動いて新しい時代を迎えたと言えるのかな、と。
 
北川 今のも、ちょっと否定的に聞こえるな(笑)。 

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