「グローバル」ではなく「惑星的(プラネタリー)」に地球の課題を考える

竹村真一(京都造形芸術大学教授)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

変える力特集No.22-photo1

5.「地球価値創造」を日本の外交戦略に
 
永久 価値の共有化は、小さいコミュニティになればなるほど容易で、大きくなればなるほど難しい。CSVもまだまだな状況の中で、価値を共有するだけではなくて、一緒に地球の価値を創造していこうというのは、高尚で、そのこと自体の価値は共有できるかもしれないけれども、実際に何か具体的なものに落とし込んでいった時には、それぞれ意見が分かれたりしていく恐れもあるのかなと思いますが、どうでしょう。
 
竹村 日本企業の実践のなかでも、すでに「地球価値創造」は進んでいます。例えば、「味の素」などは、アミノ酸製造過程で出る栄養がたっぷりの工場廃液を地域の生態系や農業に還元したり、サステナブルな漁業資源利用のためにデータの少ない太平洋のカツオの生態調査を率先して行っています。三菱ケミカルの「新炭素技術」では、工場から出るCO2をつかまえて「人工光合成」を試みたり、ビルの壁や窓を太陽電池の皮膜に変えていくような炭素素材(有機太陽電池)を実用化。植物、しかも稲わらのような廃棄部分からプラスチックや燃料をつくることも、流通コストの問題は残るものの、すでに技術的にはできていています。LIXILなどの節水トイレは、一回流すのに16リッター使っていた水が、2~3リットルで済む。アジアやアフリカの何十億の人たちが、みな豊かになって水洗トイレをつけていく時に、どれだけの水を節約できるか。
 
 これらは地球的課題のソリューションですよ。日本企業は、本当に「グローバル」という言葉では表現しきれない「惑星的」(プラネタリー)な価値創造をその業態を通じてやろうとしている。まさに、地球価値創造という言葉がふさわしい。グローバル社会における日本のプレゼンスという点からいっても、このくらいの概念がないといけません。
 
永久 外交戦略として打ち出してもいいですよね。ただ、こうした地球的な価値をつくっていくプロセスの中では、必ずそれに反対する既得権者、あるいはお金だけを求めているような人たちとの対立構造があって、例えば、今回のサンゴ礁の問題。日本の漁業者たちが大事に育てながら漁をしてきたサンゴを、日本の領排他的経済水域や領海内に入ってきて、将来のことなど考えずに、ごっそり乱暴に獲っていく中国の漁船がある。そうした価値が全然違う相手との争いや、そこまでいかずとも摩擦が出てくる。それをどう解決していくかが課題としては残る。別の言い方をすれば、価値の共有化はそれだけ難しいことですね。
 
竹村 そのサンゴでも、田んぼでも、ちゃんと世界の人たちが、その価値の大きさに気付く必要があります。例えばアマゾンは、地球の酸素の5分の1をつくっている、膨大な炭素吸収源である、地球の水循環の相当の部分を担っていて、砂漠化したら地球の水の流れとや気候が変わる。こうした価値を、人類の共通財産としてちゃんと指標化できるようにすると、もうちょっとマネージしていこうよ、となるのだと思います。
 

関連記事