「グローバル」ではなく「惑星的(プラネタリー)」に地球の課題を考える

竹村真一(京都造形芸術大学教授)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

A91A4787
永久寿夫(PHP総研研究主幹)

2.状況の変化に対応しボトムアップ型で公共財を提供する
 
永久 僕が「地球価値創造フォーラム」でもっとも知的刺激を受けたのはウエザーニュースなんです。ミクロなデータ、例えば積乱雲の発生や雨の状況などが様々な地域の人たちから自発的に送られ、それが集約・統合されて、全体の動きも分かるようになるし、特定地域の状況変化も予測できる。気象庁とは違う方法で天気予報をしている。市民一人ひとりの自発的参加によって公共財をつくっている。技術の発展が「新しい政府」機能を誕生させているような印象を受けたんです。「決められない政治」といわれている間に、社会の現場はどんどん変わってきている。
 
竹村 「決めてはいけない政治」というのがあると思うんです。その時々に柔軟に対応していくべき分野がいま増えていて、法律をつくって、それが施行されるころには状況が変わっている。それに対応する新しいシステムとしてボトムアップ型があって、電力のピークカットを暴力的にやるのではなく、みんなで、ボランタリーに柔軟に対応していくというのが具体的な例です。昔は理想論ともいわれましたが、実際にそれが可能になってきたわけです。
 
永久 阪神・淡路大震災が起きた時がNPO元年と言われていますけれども、その後、NPOの活動が様々なところで展開していますよね。これもある意味、まさに多様な社会的需要に対する柔軟で自発的、ボトムアップ型の供給ですね。
 
竹村 NPOは、「途上の言語」かなと。例えばエコという言葉もそうだと思うんです。人間の活動と自然保護は対立するものではありません。人間が田んぼをつくり、手を加えることでゆっくり流れるスローな水の生態系になって、生き物もたくさん増えて、結果的に自然の価値がたくさんつくられる。そういう価値創造は自然保護とかエコとかという言葉では、すくい切れない。NPOは、ノン・プロフィット・オーガニゼーション、否定形ですよね。そういう価値創造を生きがいも含めてつくっていくというワークスタイルがまだ一つの像を結ぶまでに至っていないんです。
 
永久 NPOの一番の問題はファイナンスで、活動自体は価値が高くて、多くの人に認められ、求められていても、それを運営する資金に関していうと、寄付はなかなか集まらないし、政府のお金に頼ってしまうと、それが出なくなったら続けられないなど、悩みを持っているところがたくさんあります。ワークスタイルとして定着させるには、この問題を解決する必要があると思うんですが、「触れる地球」で解決できませんか。
 
竹村 「触れる地球」に限る必要はなく、携帯のシステムなども大きな可能性を秘めていると思います。例えば、さまざまな場所から人々の投稿みたいなものが入っていて、そこの人の気配やぬくもり、息遣いや思いが伝わってくるような、そういう共感のメディアに発展させていくことによって、支援の輪が広がるのではないでしょうか。
 
永久 いまもHPやSNSを通じて伝わってきますけれども、それが地球的な規模で、さらに共感を呼ぶようになり、なんらかの支援を、市民というか、我われ自身が提供できるようになる。いや、実際すでに進んでいる。
 
竹村 まだうまくシステム化できてないんですが、フォトジャーナリストのグループといっしょに、戦争や災害の現場などを共有する試みを進めています。フォトジャーナリストたちは、命がけで撮った写真も、なかなか報われるような形では発表できない。あの地球儀上で彼らの写した現実を見て、大勢の人が1円でも2円でもクラウドファンディングできるようになったらいいと思います。同時に、彼らが「地球の眼」として世界の現状を伝えることによって、戦争や暴力の抑止力になる部分もあると思うんですね。
 

関連記事