「グローバル」ではなく「惑星的(プラネタリー)」に地球の課題を考える

竹村真一(京都造形芸術大学教授)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

変える力特集No.22-photo2

3.つながりは紛争の抑止力になるか
 
永久 抑止力になるかもしれませんが、逆に、加速化させる恐れもありますよね。例えば、「アラブの春」。チュニジアで勃発した反体制運動、いわゆる「ジャスミン革命」が、あっというまにアラブ諸国に飛び火して、各地で大規模な大衆抗議運動となり、多くの犠牲者を出しました。もちろん、その前提には長期独裁体制というものがあって、政治的には反体制運動が生じるのは必然だとも思えますが、SNSなどの発展がそれをエスカレートさせたとも言われていますね。
 
竹村 ネットには自浄作用を働かせる力が強いと思いますし、そこに我われがちゃんと踏み出していくことが大事なのです。僕は2005年の愛・地球博で、地球回廊プロジェクトというものを提案したんですが、資金的な面や戦争などが原因で参加できない国があり、そういうところとは、ライブでインターネットをつなげました。アフガニスタンの場合はタリバンの影響などで毎日つながるわけじゃなかったけれども、半年間ずっとコミュニケーションしました。その結果、アフガニスタンの校長さんからお礼の手紙が届いたんです。
 
 世界の人たちは、アフガニスタンなんかは知りもしないし、何が起こっていても興味がない。でも、このプロジェクトを通じて、子どもたちは、自分たちのことを思ってくれる人が地球の反対側にいるという感覚を持てた、というのです。そういうつながりを実感できるものをつくっていくことが、結果的に地球環境を守るとか、平和に少し近づける一番重要な方法なのではないかと感じています。
 
永久 たぶん一昔前までは、外国の情報は伝わっていたけれども、それは大きな国際的なメディアが供給していたある意味一元的なものであった。だから、受け手のほうの感情も白か黒かみたいなものになる傾向が強かった。けれども、情報の発信が多様化・多元化すると、様々な価値も同時に発信されて、受け手のほうもそれを多様に、多元的に考えるようになる。そうすると、二項対立ではなくて、互いにコミュニケーションしながら、解決策みたいなものを探っていけるような、そういう状況が生まれつつありますね。
 
 
竹村 その時に、情報トラフィックが多過ぎると、みんな疲れる。あるいは何が本当かわからなくなる。情報過多が情報過疎になる恐れがありますね。その点、あの地球儀は、例えば世界的なカフェのブランチに置かれていたとすると、そのカフェのカラーが好きで行っている人たちが世界中でつながりあってコミュニティとなり意見や価値を発信する。そうしたものがたくさんできていくと、同じシリア、イラク、エジプトの情勢も多元的に見えてくるのではないかと思うんですよ。
 
永久 国際関係の複合的相互依存論みたいな話でもありますね。国境を越えた利益集団、例えば多国籍企業が多くなると利害関係が複層的になって、関係国同士に紛争が生じても決定的な対立にはいたらないというような。市民レベルでそうしたコミュニティができるということは今まであまりなかったので、それができてきたら、より相互抑止力が強まるという仮説は立てられますよね。
 
竹村 それにはやるべきことはまだたくさんあります。インターネットやSNS、衛星中継がどれだけ発達しても、メディアデザインは、まだほんの一部しかなされていないというか、いまのメディア環境の外部に膨大なフロンティアがある。
 
永久 インターネット上で世界的につながっているような人たちがどれだけ強いコミュニティかといったら、わからない部分があって、いざ領土問題でトラブルがあった時に、そのつながりが一気に断絶する恐れもある。ただ、昔と明らかに違うのは、多元的な形で、多様性をお互いに理解し合えるような環境設定はまだ初期であるとは思いますが、できつつある。竹村さん提唱している「地球価値創造」は、そうした中で、世界の人々がお互いに地球の価値を高めていこうということだと思うのですが、少し説明していただけませんか。
 

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