日本の国際的存在感を高めるには

加治慶光×藤井宏一郎×金子将史

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加治慶光氏(アクセンチュア株式会社チーフ・マーケティング・イノベーター)

■脚光を浴びるパブリック・ディプロマシー2.0
 
金子 ツイッターの話になりましたが、加治さんと藤井さんはまさにこの分野のプロなので、IT、特にソーシャル・メディアの台頭が、パブリック・ディプロマシーにどのようなインパクトをもたらすのかぜひ議論してみたい。
 
 加治さんには『パブリック・ディプロマシー戦略』の中でも関係する章を書いてもらいましたが、日本がソーシャル・メディアを使いこなして世界の人々にリーチするには何が必要だと思いますか?
 
加治 少しおさらいすると、日本語版の官邸Facebookは安倍政権までなかったんです。英語版は3年程前から我々がやっていた割と公式度の高い情報提供に安倍総理が日本語でやられていたパーソナルなものの英語化が合体している感じです。
 
金子 それは直訳なんですか。
 
加治 基本的に直訳です。
 
金子 それ専用につくるのでなくて、日本語がもとになっているということですね。
 
 加治 しかし、運用も洗練されてきてグローバル向けの内容が増えていますし、最近は新しいアカウントもできるなど、コミュニケーション力は向上していると思います。
 
  ツイッターはアップの情報提供が中心ですが、より積極的に活用する方法もあると思います。リンクトインは国によって利用状況が随分違いますが、それでもリンクトイン・インフルエンサーというプログラムで英語の記事を出したことがありました。ハフィントンポストにも記事を出しました。
 
藤井 日本政府も官邸を中心にデジタル化が進んでいますが、今欧米でパブリック・ディプロマシーの話をすると、みんなパブリック・ディプロマシー2.0の話ばかりなんです。 つまり、ソーシャル・メディアを使った双方向性のあるパブリック・ディプロマシーのこと。
 
加治 意外かもしれませんが、米国や英国の政府も双方向性は高くないように思います、あれ。ソーシャル・メディアをメディアとして主に一方向で使っているだけで、双方向性を持っている政権って意外とないですよね。
 
藤井 それはそうですね。ただ、パブリック・ディプロマシー2.0というのは、政府アカウントが双方向的にやるということだけじゃなくて、マルチステークホルダー型のパブリック・ディプロマシーということなんです。
 
 今までのように、外務省がどこかの財団にお金をつけて、そこで民間交流をやってくださいとか、そういうことではなくて、一般人が発信したビデオメッセージが相手国で大反響をおこしちゃったとか、NGOや市民社会、学会の自発的な発信力が強くなってきたりだとか。あとアジェンダ・セッティング・フォーラムも民間のもののほうが影響力を持ってきたり、そういう動きが強まっています。
 
 例えば、国連総会に連動する形で、クリントン・グローバル・イニシアチブやソーシャル・グッド・サミットとか、ああいう半官半民とすらいえないシビック・セクターが主導するアジェンダ・セッティング・フォーラムが開催されて、そういうものの影響がすごく大きくなっていると思うんです。それってやはりソーシャル・メディアがあったからこそできることです。
 
 金子 アジェンダ・セッティングの話はとても大事なところなので、また後で議論できればと思いますが、まず政府のソーシャル・メディア活用ということでいうと、藤井さんから見て上手いなぁという国はどこですか。
 
藤井 スウェーデンの「Curators of Sweden」というキャンペーンでは、@swedenという政府の公式アカウントがあって、それを市民から推薦された一般国民に貸し出すんです。そして入れ代わり立ち代わり、今週は誰々がここからツイートしています、という感じで、スウェーデンの素晴らしいところや知られざる姿について世界の人たちとやりとりする。
 
金子 くまモンみたい(笑)。でも、変なことを言う人もいるんじゃないんですか。
 
藤井 そのリスクは甘受するということなんでしょうね。実際、かなり炎上スレスレのことを書く人がいたりしましたが、それでも続いています。そもそもの目的が、スウェーデンの多様性を世界に伝えることなので。
 
 イスラエルも面白いです。たとえばイスラエルでは、高校卒業のために、1年間社会奉仕することが義務になっています。そこで政府が一部の学校で、どんなデジタルプラットフォームを使ってもいいから外国人と継続的に1年間交流することもその一つとして認められるという事業を実施したのです。
 
金子 それってかなり広いですよね。
 
藤井 毎日外国人とオンライン・ゲームで交流したりとか、そういうのでもいいんだそうです。
 
金子 徹底してますね。では、そういう革新的な使い方が日本でできるのかどうか。アメリカの国務省だと、それこそツイッターの使い方など、ワークショップをしょっちゅうやって、盛んにベストプラクティスを共有していますが、日本の外務省でそういうことをしているという話はきいたことがありません。きっちり問題なくITやSNSを使うということはやっているのでしょうが、色々試しながら新しいことをやる感じがしないんです。
 
加治 そこは、日本の文化として、完璧になったものを出していくのが美点というところがあるので、それがソーシャルなものに合いにくい面があるかもしれません。
 
 それに特に行政官の皆様は税金を使って活動しているわけですから、完璧な説明責任を要求されますよね。試行錯誤して、失敗しちゃいましたというのは、制度としても傾向としても、やりにくいところがある。それでも随分チャレンジされていると思いますが。
 
金子 でも、さきほどのイスラエルにしてもスウェーデンにしても官僚組織ではあるけれども、フライングも含めてやってるわけですよね。
 
加治 それは小さな国だからできているともいえるのではないでしょうか。我が国って、見過ごされやすいんですが、1億2000万人以上も国民がいるんですよ。しかも中央政府の力が強い。イスラエルの人口が800万人、スウェーデンの人口が950万人、それこそ東京都よりも少ない人口なわけで、ずっと身軽であるのは事実でしょう。
 
藤井 それでいうと、アメリカがあれだけ大きい国でできているというのは、とにかくお金をつけてでもやる、という意思があるということですね。2012年に国務省がfacebookのフォロー数を3か月で80万から400万に上げたのですが、これは世界中の大使館や民間と組んで、国ごとにコンテンツのカスタム化を行い、プロモーションキャンペーンをやったり、とにかくお金と人を付けてやりました。今年からは20か国の大使館にコンサルタントを送ってそれらの国でソーシャルメディアのリーチを2倍にするキャンペーンを行っています。アメリカにはそういう物量作戦をやる意思があるということです。
 
 これに対して、日本はどうか。以前あるところで、日本の全省庁の対外広報のウェブサイトを分析したところ、いくつか共通する問題点がありました。列挙してみると、(1)SEO(検索エンジン最適化)非対応なところが多い(2)サイト間誘導の動線がない(3)運営が不安定(4)単なる発表が多くて対話が欠如している(5)ソーシャル連携の非対応のものが多い(6)スマホ対応のレスポンシブサイトがない(7)省庁間の運営がバラバラ(8)ソーシャルのアカウントがあってもランディングページ連動してない(9)PDFへリンクしているだけのものが多い(10)独自ドメインがない(11)クリエイティブが弱い、といった感じです。こうした技術的なところは、やればできるという話だと思うんですが、予算をつけなければいけないし、時間もかかる。人の問題も大きいですね。

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