「見えないリスク」を見つけるマーケティング的アプローチ

NPO法人 OVA 代表理事 伊藤次郎 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――検索に連動させて広告を打って、そこから支援に誘導するというモデルはとてもわかりやすいのですが、ふつうリスティング広告はそこから商品の購入やサービスの提供につなげるための投資ですよね。OVAの活動の場合、マネタイズはどのように行われているのですか? 広告費を支払われているわけですが、それを回収するために要支援者のメール対応を有料で行うというわけにもいかないですよね。
 
伊藤:災害直後の人に対する緊急的な支援などもそうですが、受益者からお金をいただくのは難しいですよね。いま危機にある人の支援でお金をもらうって難しいんです。
 私の場合は、いま危機的な状況にある若者の沢山の声なきSOSを知って、何かできないかと始めたのがこの相談事業です。はじめた当初はマネタイズのことなど考えていません。もちろん活動を継続するためにマネタイズのこともずっと考えてきましたし、方法も調べましたが、すぐには答えがでなかったし、それがすぐにできないことは、事業をやめる理由にはなりませんでした。
 当初、広告や活動費は私財からの持ち出しでした。自殺対策活動全般に言えることですが、この分野は、非常にマネタイズが難しいんです。寄付も集まりやすいとは言えないですし。そこはとても大きな課題ですね。
 
――ホームページを立ち上げて、メールでの相談受付を開始された当初は、前職のお仕事も続けられていた?
 
伊藤:そうですね。自営で事業をやっていたので、その合間にメールの返信をしていたんですが、やはり大量のメールが来るんです。当時は全国で広告を打っていましたし、朝から晩までずっとメールを打って、あらゆる内容の相談が来るため支援に必要な知識を得るために書籍等をひたすら読む、またメールを打つ、という状況になって、どんどん仕事が圧迫されていった。そこで、思い切って事業はやめて、こちらの活動に全部かけることにしました。お金にならないことは分かっていましたし、本当に私財をすべて投じた形にはなりましたけど。
 しばらくそうしてひとりで活動しながら、自殺予防の研究を行っている大学の先生に協力を依頼したりして、仲間を増やし、少しずつNPO法人化の準備を進めていきました。いまは私を含めて3名の相談員でメール対応を行っています。
 
――3名で、何通くらいのメールに対応されているんですか?
 
伊藤:ばらつきがあるので正確な数字は言えないんですが、ざっくり言うと、2日にひとり新規の支援対象者が増えていくという感じですね。一年間で約180人ずつ増えていくようなペースです。相談は一度きりではなく、継続して支援していきますから、新規はそのくらいに抑えないと、いまの体制では私たちのほうの対応が追い付かなくなってしまうので。新規相談数は広告を打つ地域や金額、時間等である程度コントロールすることができます。
 
――最初にメールを受信してから、だいたいどのくらいでメール相談を必要としなくなるというか、現実の支援機関へバトンタッチされるんですか?
 
伊藤:それも一言で言うのは難しいですね。何をもってよくなったというのか、その成果を測定することも非常に難しいのですが、たとえば、彼らがいままでかかっていなかった大学の心理相談室などの援助機関に行けたとか、食べ物もない人が生活保護を受給できたといった生活状況の改善や、メールの中で、「やっぱり生きてみます」とか「もう少しがんばってみます」といったポジティブな感情の変化が表れてきた事例を成果とすると、これまでに約3割から4割は成功したと分析しています。
 それにかかる期間は、もちろん人によってさまざまですが、意外と長くはないです。1年以上相談を受けている方もいますが、大半は半年以内ですね。とくに経済面など生活上の課題を抱えている場合は、その課題を解決できる支援先とつないだりすることで、比較的短期間で次のステップに移って行きます。
 

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