小さな変化が大きな影響を与える事業

認定NPO法人 育て上げネット 工藤啓 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――日本マイクロソフトやJ.P.モルガンとの連携事業では、SROI評価を取り入れられているそうですね。
 
工藤:資本主義市場に流れているお金を社会福祉に流入させていこうという大きな動きの中で、そうした投資の生み出す効果を測定するための評価ツールのひとつがSROIです。日本の場合は評価指標が先に入ってきたのではないでしょうか。2010年に私たちが日本マイクロソフトさんとの連携事業でSROIを算出したのは、日本ではかなり初期の事例だと思います。日本ではSROI評価事例がまだ少ないようです。
 いまも企業さまとご一緒させていただく際、「第三者評価を入れてください」ということがあれば「せっかくだから、SROIをやってみてもいいですか」と相談してみます。もちろん、SROIに限らず多様な評価の手法があるので、これもご担当者と評価者と議論をして進めています。
 SROIは、通常の投資のROI(Return On Investment:投資利益率)と比べて、漠然としているんですよね。たとえば、支援した子どもの成績があがったことにどのくらいの価値があるのか、貨幣価値に置き換えて算出したりするので、やはり第三者を入れて客観的に評価してもらわなければいけない。自分たちで勝手に高い評価をつけても、外部に対して説得力がないですから。
 日本ではSROI評価をお願いできるところもまだ限られていますが、SROIやインパクト評価といったものもなるべく積極的に取り入れて、評価ツールを活用した事例をつくっていきながら、休眠預金やソーシャルインパクトボンドといったお金の議論を加速させていきたいと思っています。
 
――日本では社会貢献性の高い活動については、その取り組みの意義ばかりが強調され、実際どのような成果を生み出しているかはそこまで問われてこなかったと言われていますね。
 また、とくに行政の補助金については、「決められた通りに使われること」が最重要視されていて、成果はほとんど問われない。先ほどのお話で言えば、「遊園地に行こうよ」と誘うことで長年引ひきこもっていた人を家から連れ出すことができたとしたら、それは課題解決のための正しい使い方のひとつだと思うんですが、決められた使い方でなければ認められないし、逆に成果が出なくても決められた通りに使っていればおとがめなし。
 
工藤:「何をする」が先にあって、「その結果どうなった」は結果論。
 資源は限られていますから、できるだけ社会的な投資効果、費用対効果の高いところに投入したい。では、どうやってそれを測定するのか。そのようななかでSROIに限らずさまざまな評価手法が開発されているようです。
 非営利組織として活動している身としては、就職者数や就職率という成果だけでは測れないと思うこともやっぱりたくさんあるんですが、「成果だけでは測れない」という現場の感覚と、「成果が何なのかわからなければ、支援ができない」という支援者の間で、私たちはバランスをとっていかなければならない。

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