消費増税に反対するのは誰か?─シルバーデモクラシー論を超えて─

島澤 諭 (公益財団法人中部圏社会経済研究所研究部長)

Talking Points

  • 財政再建の必要性は認識されていても実際には遅々として進まないなか、近年、高齢世代と政治が連合して改革を阻害しているとのシルバーデモクラシー論が主張されている。そこで累進労働所得増税か消費増税かという二択問題を想定し、消費増税に関する世代別・所得階層別家計の賛否についてシミュレーション分析を行った。
  • マクロ経済・財政パフォーマンスに与える影響から評価すると、消費増税の方が累進労働所得増税より優れている。特に、マクロ経済・財政状況の改善を受け、将来世代の経済厚生の改善が著しい。また、財政再建を先送りできるタイムリミットは2040年と試算された。
  • ベンサム型政府、有権者の投票、いずれによっても、消費増税と累進労働所得増税の何れが選択されるかは、財政再建に伴う効用変化を政策決定主体がどの程度の視野の長さをもって判断するかに依存し、近視眼的な場合には消費増税、長期的な場合には累進労働所得増税が選択される。
  • 消費増税による財政再建の先送りは、消費増税を支持する高所得・現役世代と累進労働所得増税を支持する高齢世代及び低・中所得現役世代の間の対立の結果、つまり、高齢世代と高所得層以外の現役世代の連合の結果であり、高齢世代にだけ財政再建先送りの責任を帰すシルバーデモクラシー論は妥当ではない。
  • 政府や有権者の視野の長さに関わらずマクロ経済・財政パフォーマンスに優れる消費増税が選択されるためには、①教育無償化や所得向上等現役世代の低中所得階層にも恩恵が行き渡るような施策や、②現役世代の手取所得額の変化率と高齢世代の年金給付額の変化率を連動させることで、累進労働所得増税の実現で被る現役世代の負担を高齢世代にも分担させる施策を消費増税にあわせて実施するなど、課税のタイミングの違いが所得階層別・世代別家計の政策選択に与える歪みを小さくする必要がある。
消費増税に反対するのは誰か?─シルバーデモクラシー論を超えて─

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