デフレ脱却と財政健全化─消費増税をめぐる「総括的検証」─

中里 透 (上智大学経済学部准教授)

Talking Points

  • 異次元緩和から5 年、消費増税から4 年が経過したが、デフレ脱却と財政健全化はまだ道半ばの状況にある。このような現況は、2014 年4 月に実施された消費増税が景気・物価に与えた影響と関連づけて理解するとわかりやすい。
  • 2014 年春以降の消費の停滞は、消費税率の引き上げと円安による輸入物価の上昇などの影響で実質所得が低下したことによるところが大きい。消費の停滞を社会保障に関する将来不安や潜在成長率の低下などの構造的要因に求める見方は、実際のデータとの整合性が確保されない。
  • 財政収支は改善し、債務残高も安定化の方向に向かっている。債券市場も落ち着いた動きを示しており、一部で喧伝されているような財政破綻のおそれはない。
  • 財政収支の均衡化に向けたコミットメント(約束)の明確化を図ることにより、デフレ脱却との兼ね合いに留意しつつ、財政健全化に向けた取り組みを引き続き着実に進めていくことが必要である。
  • 消費増税によるマイナスの影響を減殺するために大型の経済対策が実施された場合には、「財政再建なき増税」が実現してしまう可能性がある。「消費税還元セール」などの反動減対策の効果は限定的なものにとどまるものと見込まれる。
  • デフレへの逆戻りは財政健全化に大きな足かせとなることから、2019 年10 月の再増税(消費税率の10%への引き上げ)をめぐって今秋にも予定されている実施・延期の判断に当たっては、この点にも留意して増税の可否につき慎重な見極めが必要となる。
デフレ脱却と財政健全化 ─消費増税をめぐる「総括的検証」─

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