【政策提言】裏金問題への対処の基本的な考え方
― 政治資金規正法の改正(厳格化)を急げ―

はじめに:問題意識と対処の方向性

現職議員の逮捕に至った政治資金規正法違反の裏金問題は、現在も捜査中で、その全容はまだ明らかになっていない。しかし、この問題は、経済がデフレからインフレに転換し、生活必需品も含めたモノやサービスの価格が上昇する中、賃金の上昇がこれに追いつかない、つまり、実質賃金のマイナス状態が続き、国民それぞれの暮らしが厳しい中、そうした国民のためではなく、自分自身の利得のために政治家は働いているのではないかとの疑念を沸き起こした。まずもって、本問題は、政治家に対する激しい怒りと不信に直結するもので、我が国の民主政治の根幹を揺るがす重大な政治事案として認識すべきである。

また、そうした疑念、激しい怒りや政治不信には、社会のルールを決める立法府の一員である国会議員が、自分たちを縛るルールである政治資金規正法については抜け穴だらけであるばかりか、それすらも守ることができないことへの呆れもあるだろう。それも、逮捕・立件されると報道された国会議員数人ばかりではなく、政権を担う与党の主要派閥において慣例化しているといったことも不信を倍加させた。国民の激しい怒りや不信は爆発せず、むしろ、あきらめに向かっているのも、この問題の深刻さを表している。

この問題を、一部の派閥や政党の問題に矮小化してはならない。また、これに乗じて、自らの政治勢力を拡大させようという権力闘争の一面も見られ、それをメディアが助長する向きもあるが、それでは、政治への失望と嫌悪感をますます増幅させるだけだ。

一方、2024年の世界を見れば、欧州と中東という世界の重大地域でウクライナ戦争とガザ戦争が継続している。また、本年は、一月の台湾から始まって、米国、ロシア、インド、インドネシアなどの主要国において重要な国政選挙が予定されており、こうした世界情勢に対しては、日本の国際的な地位を確固たるものとし、これに臨むことが重要である。国内を見れば、震災の復旧・復興対応はもちろん、経済がデフレからインフレに転換し、回復プロセスの重要な時期にあることを考えれば、政治家の法令違反や醜聞に、我が国のポリティカルキャピタルを注ぎ込んでいる時間もリソースもないはずだ。

1989年(平成元年)5月に自由民主党によって示された「政治改革大綱」を原点にして、平成の一連の改革(選挙制度および行政改革)をあらためて総括すべきとの意見もあるが、選挙制度改革一色となったその後の政治を思い出せば、やるべきことを列挙し過ぎて戦線を極端に拡大させるのは得策ではない。政治への信頼回復には時間がかかるのは当然で、優先度の高いもの、あるいは、実効性が高いものといった形で順番を明確にして取り組んでいくべきではないだろうか。

こうした基本的な問題意識を踏まえれば、①短期の対応として、再発防止に直結する法令違反である裏金問題を引き起こしたザル法の政治資金規正法の改正(厳格化)を最優先とし、②中長期の対応として、社会の多様性を反映できず、派閥主導・個人商店連合型を引き摺る自民党のガバナンス改革を中長期で求めることが肝要である。自民党では1月10日に政治刷新本部を立ち上げ、派閥の見直しが主題と伝えられているが、その方向で進めば、問題の解決には至らない。また、短期対応となる政治資金規正法改正においては、何を変えるかだけではなく、国会議員自らが重大な問題を起こしたことを踏まえ、どのように、また、誰が改正のプロセスを主導するか、といった方法論も重要となるだろう。

1. 短期の対応(政治資金規正法改正)

政治資金規正法(以下、同法)の改正を考えるにあたって、裏金問題がどのような問題なのか、考えておきたい。同法の第一条は(目的)であり、第二条は(基本理念)である。いずれも重要であるにも関わらず、あまり世間では語られない印象もあるので、ここであらためて明示しておきたい(下線は筆者による)

(目的)

第一条 この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。

(基本理念)

第二条 この法律は、政治資金が民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財であることにかんがみ、その収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだね、いやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない。

政治団体は、その責任を自覚し、その政治資金の収受に当たっては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない。

これらの条文を読めば明らかだが、今般の裏金問題は、全容解明は道半ばとはいえ、同法が求める政治資金収支報告書に記載されない政治資金、文字通り、裏金が存在したわけで、政治活動が国民の不断の監視と批判の下で行われる、さらには、その責任を自覚して政治資金の収受を公明正大に行われなければならないといった同法の目的や基本理念に対する重大な法令違反で、その前提ともなる民主政治の担い手としての背任行為にもあたるものだ。法的責任の追及がいかなる形で行われるにせよ、問題の当事者が立法府を担う国会議員であることも考えれば、その道義的責任はきわめて重く受けとめなければならない。

さて、ここからは、同法の改正に向けたポイントについて考えていきたい。

同法では、政治団体に4種の区別がある。①政党・政治資金団体、②国会議員関係政治団体、③公職の候補者に一つだけ認められる資金管理団体、④その他の政治団体である。

まず、①政党・政治資金管理団体については、自主監査及び収支報告書に監査意見書を添付が求められている。これに加え、諸外国と同様、政党法が定められるべきとの問題提起も承知しているが、これは中長期の対応に直結するもので、本節では②③④を見ていく。

表1 政治団体ごとの支出の明細の開示および領収書の写し等の添付基準

表1 政治団体ごとの支出の明細の開示および領収書の写し等の添付基準

出所:「政治資金規正法のあらまし」(総務省自治行政局選挙部政治資金課)

表1は「政治資金規正法のあらまし」に示された政治団体ごとの支出の明細の開示および領収書の写し等の添付基準である。②国会議員関係政治団体および③資金管理団体については、政治資金収支報告書への支出の明細の記載や領収書等の写し等の添付、また、監査手続き等についても、より厳格なルールが求められている。②国会議員関係政治団体については、収支報告に関する特例として、人件費以外の経常経費の明細(1万円以上)、すべての領収書について徴収義務がある(開示請求に応える必要)。また、表1とは別に、登録政治資金監査人による政治資金監査及び収支報告書に政治資金監査報告書を添付することも求められ、もっとも厳格な対応が必要とされる。③資金管理団体については、人件費以外の経常経費の明細(5万円以上)、保有不動産等の利用状況の記載が求められる。

今回の裏金問題の舞台となった派閥は、同法の上では、「政治上の主義又は施策を研究する目的を有する団体で、国会議員が主宰するもの又はその主要な構成員が国会議員であるもの(いわゆる政策研究団体)」であり、④その他の政治団体に該当するとされている

④その他の政治団体の場合、経常経費の明細の記載の必要はないし、領収書の添付も不要である。なにより、その他の政治団体であれば、②や③と異なり、事務員でも代表者を務めることができる。

表2 政治資金規正法の主な罰則

表2 政治資金規正法の主な罰則

出所:「政治資金規正法のあらまし」(総務省自治行政局選挙部政治資金課)

表2のとおり、同法では、収支報告書の不記載、虚偽記載など、同法を違反した場合の罰則や公民権停止についても示されているが、罰そのものが軽い(近年の事件の未記載額からすれば罰金はきわめて少額)ことに加えて、「その他の政治団体」である派閥の場合、事務員でも代表者を務められるため、実質的な権限を有する国会議員に罰が及ばない可能性が高いという問題が指摘できるだろう。

こうした問題を踏まえれば、派閥について、同法上の取り扱いを改めると共に、罰則の厳罰化を求めることが必要となってくる。具体的には、派閥を「その他の政治団体」から「国会議員関係政治団体」と同じ記載と監査の条件と求めることが必須となるし、重過失においては、問題となる金額相当の罰金、禁錮や公民権停止の長期化にも踏み混むべきである。罰則が重すぎるといった意見も当事者である国会議員からは出てくるかもしれないが、そもそも、本件の問題の深刻さをあらためて認識すべきで、同法が定めた目的や基本理念を今一度噛みしめる必要があるのではないだろうか。

併せて、これらの制度改正のプロセスを、国会議員が担うのではなく、専門家に委ねるといった工夫も求められる。立法府の一員である国会議員が重大な法令違反を犯した経緯を踏まえれば、その関係者がどのような対策を打ち出したとしても批判は止まらないのが世の常ではないだろうか。逮捕者は金額が大きい人ばかりで、関係した多くの国会議員に罰が及ばないという批判を踏まえれば、検事や警察といった法令違反や刑事事件を経験した者も含めた専門家によって原案は検討されなければならない。現在の統治機構の構造では、行政を担う官僚機構が立法府のあり方を統制することは困難であることから、たとえば必要に応じて総理大臣の諮問で内閣府に設置されてきた選挙制度審議会を活用することが考えられよう。選挙制度審議会は、所掌業務の一つとして「政党その他の政治団体及び政治資金の制度に関する重要事項」が規定されており、検討を担う組織としてふさわしい。現在、委員は任命されておらず休眠状態にあるが、これを再稼働させるといった設置が考えられるだろう。

2. 中長期の対応(政党ガバナンス改革)

政党ガバナンス改革については、その基本骨格は、以下の図に示した、筆者が2021年12月に自由民主党改革実行本部で講演したものがベースになりうるのではないだろうか。

そもそも、岸田政権の当初の問題意識は政党改革にあって、同年9月の総裁選において、党則を改め、党役員の任期を「1期1年、連続3期まで」と掲げたところに原点があるわけだが、その後の党改革の実効性は伴わない状況が続いている。

政党ガバナンス改革が目指すべきは、現代の民主政治において、主権者である国民と政治の接点・つなぎ役としての政党の機能を踏まえれば、これまで漫然と続いてきた、個々の政治家や派閥任せの商店街連合会型の分権型政党ではなく、政策力と人材力・組織力を高めた、有能な政権を続けて機能させることができる、より高度なものでなくてはならない。そうした意味では、現在、多くのメディアが関心を持ち報道している派閥の存続の当否ではなく、政党そのものを国民のために役立てるものにしていくように改革していくことが国家のためになるという視点を忘れてはならない。

図 党改革の全体像

図 党改革の全体像

出所:自民党党改革実行本部における筆者講演(2021年12月1日)資料より

とくに、変化の激しい現代社会においては「多様性を伴う」ことが、豊かさの創造やリスク回避の点からも有効とされていることを思い出せば、多様な人材を集めることができていない自民党の現状をいかに改めるか、「(多様な)人材の探索・発掘ができる力」を政党が保有することができるかどうかがもっとも重要な論点となるはずではないだろうか。

男性議員や世襲議員の割合が高いのはなぜか、そもそも、これを問題として認識し、具体的な手立てを打てているのか、それが国民に伝わっているのかといった視点であらためて考える必要があるし、国民から見れば、政治は閉鎖性の高い世界で自分には関係ない世界と見られているのではないか、それはそう認識する国民の側ではなく、政治の側に問題があるのではないだろうか。

かつて公職を経験した筆者からみても、政治の世界に入っていくこと・出てくることに大きな困難があるように感じられたが、それは、しばしば語られる、選挙に出ることの困難さだけがそうさせているのだろうか。もちろん、政治の世界だけではなく、仕事を変えていく、政治も含めて渡り歩くことに関する、社会や経済界の受容の問題もあるかもしれないが、このあたりは、政治の世界に多様な人材を受け入れていくにあたって、不可避な問題のはずだ。

例えば、市民社会において、あるいは、経済活動を通じて、新しい社会課題の発見と解決に尽力し、実績をあげている人物が、短期間でも政治の場で活躍し、元の場に戻ることが選択できる可能性はないのだろうか。

選挙こそ、政治家を育てる最も有効な機会の一つであることは確かだがxiii、いわゆる雑巾がけから当選回数を積み上げるばかりの人材登用・育成の流れだけでよいのだろうか。また、近年では、議員候補者の選定プロセスが書面審査を重視するばかりで、多様な人材獲得ができていないといった声を聞くこともある。こうした問題を考えた時に、有能な政党、ひいては有能な政権を作っていくために、意義ある候補者選定プロセスの試行錯誤が進められているのだろうか。

まずは、最初の具体的な手立てとして考えられるのは「議員候補予定者の登用プロセスの確立と見える化」だが、こうした視点に立って、政治に人材を得るための様々なやり方をアジャイルに試していくことも必要なのだろう。

併せて、自民党であれば、候補者の選定や育成のための中央政治大学院、都道府県連地方政治学校におけるカリキュラム化は必須であろうし、しばしば世襲以外の候補者から見れば大きな壁とされる候補者選定の周知期間の確保や選定プロセスの一部公開、都道府県連の共通ルール化なども検討の対象になる。

そもそも、考えてみれば、こうした政党ガバナンス改革について、公論がおよそ存在しなかったこともあらためて問われる必要があるだろう。アカデミアやメディア、経済界、さらには、私たちの社会は、こうした議論を喚起してきただろうか。政治に対してきちんとモノを言ってきただろうか。PHP総研は政策シンクタンクとして、一連の選挙制度改革や統治機構改革の総括には取り組んできたがxiv、私たちの力不足は反省するとして、各界の反応はいまひとつというのが正直なところだ。

国家ビジョンや国家経営といった話は出てこず、個別の利害調整に偏ってはいなかっただろうか。政治のロジックは独特で、よくわからないので、政治だけに任せておこうという姿勢はなかっただろうか。

このあたりを論ずれば、鶏と卵の論争になってしまうかもしれないが、ここ数十年の日本経済の低迷もあって、実利重視ばかりで政治に求めてきたこと、そして、政治もそれに応えてきたことが、今回のような問題を招いた背景に存在するのかもしれない。

政治は不断の努力によってこそ改善される。今回の傷が大きいからこそ、また、なにより、日本が置かれた状況をよく踏まえつつ、エモーショナルな話題提供に振り回されず、未来につながる議論を進めていきたい。

本年の世界情勢については2024年版「PHPグローバル・リスク分析」が詳しい。

https://thinktank.php.co.jp/policy/8299/

自民派閥改革 岸田首相 派閥の役割や機能など意見集約へ(NHK、2024年1月13日)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240113/k10014319231000.html

e-gov法令検索より

政治資金は、その活動を支えるスタッフに支払われる人件費や政治活動を国民に伝える広報等に、その多くが費やされるもので、一定程度の政治資金が必要とされることは当然で、同法が示すとおり、政治資金そのものの重要な役割はしっかりと認識すべきである。

同法および「政治資金規正法のあらまし」(総務省自治行政局選挙部政治資金課)による。

政党のために資金を援助することを目的とし、政党が指定した団体。

監査制度は2006〜07年に相次いで発覚した事務所費問題を契機に09年分の収支報告から導入。公認会計士や税理士等が監査人を務める。

公職の候補者が、その者が代表者である政治団体のうちから、一つの政治団体をその者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体として指定したもの。寄付特例がある。

同法では、政党・政治資金団体以外の政治団体(主義主張団体、推薦団体、後援団体、特定パーティー開催団体等)とされるが、本論では、②と③を除いて「その他の政治団体」とした。

「なるほど政治資金!」(総務省)より https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/naruhodo04_2.html

公民権停止の期間は、①禁錮刑に処せられた者:裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間とその後の5年間、②罰金刑に処せられた者:裁判が確定した日から5年間、③これらの刑の執行猶予の言い渡しを受けた者:裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、である。

選挙制度審議会設置法に基づいて設置された組織。1961年以来、過去8回設置されており、1991年まで活動が断続的に続けられてきた。以下のリンクは内閣官房による審議会一覧のうち、選挙制度審議会に関する説明。https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/shingikaitou_01_01_12.pdf

xiiiそれこそ、民主政治の古典である『アメリカのデモクラシー』の著者であるトクヴィルは選挙の効用を説いた。具体的には、第二部第四章のアメリカ人が個人主義に陥らないための工夫としていくつかの諸制度を挙げているが、そのうちの一つが選挙である。トクヴィルは、選挙が、長期的には市民お互いの協力を引き出し、市民の多くを近付けるといったプラス面に着目している。

xivPHP総研における「統治機構改革1.5・2.0」および「憲法論3.0」

「統治機構改革1.5&2.0」 https://thinktank.php.co.jp/policy/4920/

「憲法論3.0」 https://thinktank.php.co.jp/policy/7380/

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