【提言報告書】統治機構改革1.5&2.0―次の時代に向けた加速と挑戦―

 平成が終わり、次の時代に移ろうとしています。この30年は変化の時代でした。東西の冷戦構造が変容し、経済や社会のグローバル化は進みましたが、近年では、自国の利益を第一とする排外主義や貿易保護主義の強まりも見られます。高度経済成長に続く、追いつけ追い越せ型の経済社会から、お手本の無い成熟期に応じた社会を目指してきました。
 政治は、政治改革とこれに続く統治機構改革によって、時代の変化に対応しようとしました。衆院総選挙に小選挙区制を導入し、その後、国民の選択を駆動力として、統治機構の主体を内閣に転換させ、「国務を総理する」内閣の高度の統治・政治の作用を重視したのが改革の方向性でした。こうした改革は、日本の政治をどう変容させたのでしょうか。また、その変容は、日本の政治をより望ましい方向に変えたのでしょうか。課題があるとすれば、それは、改革の方向性の誤り、それとも、改革の不徹底のどちらが原因なのでしょうか。次の時代を想定し、これからの改革はどのように進めるべきなのでしょうか。
 こうした問題意識を踏まえ、政策シンクタンクPHP総研では、2018年5月にPHP「統治機構改革」研究会を立ち上げ、制度のあり方はもちろん、運用の面からも、また、理論ばかりではなく実務からも、生きている政治の現状を踏まえ、あるべき方向性と具体的な今後の取り組みを検討してまいりました。
 統治機構改革1.5(加速)と2.0(挑戦)として提案した内容は、内閣におけるコア・エグゼクティブのチーム化の方法論の確立、総理による発議のさらなる活性化、「プーリング型」総合調整の実践、衆議院のアリーナ型議会化、参議院がより長期的課題に取り組むための独自の機能の明確化・差別化、独立機関の積極的立ち上げと活用等、すぐに着手しなければならないことばかりです。また、これまでの認識を改めなければならない点もあり、その背景に置くべき、改革にあたっての基本的な考え方を示しました。
 新しい時代の政治の次の一歩を考える際のご参考にしていただければ幸いです。

PHP「統治機構改革」研究会メンバー

松井孝治
(慶應義塾大学総合政策学部教授)
牧原出
(東京大学先端科学技術研究センター教授)
待鳥聡史
(京都大学大学院法学研究科教授)
宍戸常寿
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
山本龍彦
(慶應義塾大学法科大学院教授)
砂原庸介
(神戸大学大学院法学研究科教授)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
亀井善太郎
(政策シンクタンクPHP総研主席研究員、立教大学大学院特任教授)

<研究会顧問>

前田和敬
(公財)日本生産性本部理事長
永久寿夫
(株)PHP研究所取締役・専務執行役員

(敬称略、順不同)

【内容】

<提言報告書 目次>

はじめに:いま、なぜ、統治機構改革なのか

1.起点としての自民党政治改革大綱と橋本行革の理念

  • (1)政治不信を乗り越えるとの厳しい危機感が原点
  • (2)理念を持った行政改革であった橋本行革
  • (3)内閣機能の強化、内閣総理大臣の指導性の強化の意義

2.平成期以降の統治機構改革の成果と課題

  • (1) 成果と課題(概論)
  • (2) 国民が選んだ総理のリーダーシップは外交・安全保障を中心に発揮
  • (3)「計画権力」の強化と空洞化する国会審議
  • (4) 強い内閣であっても、痛みを伴う課題は先送り
  • (5) 司令塔は乱立気味で、組織は肥大化、機動性も低下
  • (6) 内閣主導を支える官邸チームの編成の方法論は未確定
  • (7) 行政の専門家である官僚の機能の変化

3.統治機構改革1.5(加速)

  • (1) コア・エグゼクティブのチーム化と発議の活性化、大臣のキャリアパスの確立
  • (2) 政権選択に直結する総選挙の位置付けの明確化とこれからの政治家像
  • (3) 衆議院の「アリーナ型議会」化と野党の役割
  • (4) 情報公開、公文書の保存による将来の国民によるコントロールの発揮

4.統治機構改革2.0(挑戦)

  • (1) 「プーリング」型総合調整の実践:まずはデータ社会に向けた対応から先行
  • (2) 参議院改革、その役割・機能の明確化
  • (3) 国会、とくに参議院での「独立財政機関」(IFI)の立ち上げ
  • (4) 独立機関の強化、立て直し(専門合理性に基づく「制動力」の発揮)
  • (5) 組織指向から専門性指向へ、官僚のプロフェッショナリズムの徹底化
  • (6) 専門家による会議の機能および発信の強化
  • (7) グランドデザインとしての憲法

おわりに:次の時代に向けた統治機構のバージョンアップを

<参考資料>

「統治機構改革1.5&2.0―次の時代に向けた加速と挑戦」|PDF|

<研究会開催経緯>

研究会のキックオフとなる第一回研究会を2018年5月29日に開催しました。

本研究会を設置した問題意識および目的、研究会における想定される論点について、亀井(PHP総研)が説明し、メンバーで活発な議論を交わしました。
現在の統治機構は、90年代後半の橋本行革に遡るものであり、その着眼点が、国民主権に基づく民主的統制という「理念」と進展するグローバリゼーションや高齢化の加速等の社会の変化といった「与件」に対応できる政治の両立にあったのではないかという現時点の仮説はもとより、今後の検討にあたっては、これまでの検証と共に、理念と与件の様々な変化を併せて見ていく必要があるという研究会の進め方についても確認しました。

第二回研究会を6月13日に開催しました。

松井孝治さん(慶応義塾大学総合政策学部教授、元内閣官房副長官、元参議院議員、元行政改革会議事務局調査員)、荻野徹さん(元行政改革会議事務局調査員、原子力規制庁次長)のお二人に、橋本行革当時の検討プロセスを中心に、橋本行革が目指したもの、そして、その後の政治や行政、さらには社会の動きを踏まえた成果と課題について、お話いただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第三回研究会を6月26日に開催しました。

清水真人さん(日本経済新聞編集委員)に、最近発刊された『平成デモクラシー史』に書かれた内容を中心に、経済財政政策、とくに少子高齢化に伴い必要とされる財政健全化の観点から、統治機構の変化が何をもたらしたのか、お話いただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第四回研究会を7月31日に開催しました。

甘利明さん(衆議院議員、自由民主党行政改革推進本部長、元経済再生担当大臣、元内閣府特命担当大臣、元経済産業大臣)に、これまでの数々の経験を踏まえ、橋本行革以降の統治機構のあり方(成果と課題)、とくに、コア・エグゼグティブ(中核的執政)のあるべき制度と具体的な運用、政と官の関係等について、お話いただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第五回研究会を8月1日に開催しました。

大屋雄裕さん(慶応義塾大学法学部教授)に、平成期の政治や行政等に関する制度改革(選挙制度、内閣機能強化、地方分権、司法制度)の方向性が一貫性を欠いたものであったとの反省を踏まえ、今後の統治機構改革を検討する際に求められる「国家と社会のグランド・デザイン」のあるべき姿について、社会課題の変容や技術進化の進展等を踏まえ、問題提起をいただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第六回研究会を9月7日に開催しました。

福田康夫さん(第91代内閣総理大臣、元内閣官房長官、元衆議院議員)に、内閣の首班、また、国家の中枢を担われた豊富な政治経験を踏まえ、橋本行革以降の統治機構のあり方(成果と課題)、とくに、中長期の課題に取り組むための政治や行政のあり方、あるべき制度と具体的な運用、政と官の関係等について、問題提起をいただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第七回研究会を10月2日に開催しました。

牧原出さん(東京大学先端科学技術研究センター教授)、待鳥聡史さん(京都大学法学部教授)のお二人に、統治機構改革に関するこれまでの議論を踏まえ、それぞれから問題提起をいただきました。
牧原さんからは、改革した制度そのものばかりではなく、これに伴う様々な「作動」が具体的にいかなるものであったのか、作動の過程を全体としてとらえ、歴史のダイナミズムの中で把握する視点から、また、待鳥さんからは、行政改革を含む平成期以降の一連の政治改革における整合性と連動性について、背景にある基本理念から、集権化と分権化という異なる動きが与えた影響、また、未着手の改革が残した課題について問題提起され、メンバー間で活発な議論を交わしました。

第八回研究会を10月10日に開催しました。

砂原庸介さん(神戸大学大学院法学研究科教授)、金子将史さん(PHP総研首席研究員)のお二人に、統治機構改革に関するこれまでの議論を踏まえ、それぞれから問題提起をいただきました。
砂原さんからは、一連の政治改革について、主権者である国民から見たときに、どのような評価がされるのか、国民の実生活においてどんな影響が及んでいるのか、といった多様な分析の視点から、また、金子さんからは、この間に設立された国家安全保障会議やその事務局機能を担うために内閣官房に設置された国家安全保障局を事例に採り上げ、改革の成果と課題に関する分析を踏まえた問題提起がされ、メンバー間で活発な議論を交わしました。

第九回研究会を10月24日に開催しました。

宍戸常寿さん(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、山本龍彦さん(慶応義塾大学法科大学院教授)のお二人に、統治機構改革に関するこれまでの議論を踏まえ、それぞれから問題提起をいただきました。
宍戸さんからは、統治機構の普遍的課題、その現代的対応、さらには日本が直面する各課題を踏まえ、これまでの評価と残された課題としての国会、とくに第二院のあり方について、また、山本さんからは、急速に進展するデータ社会を前提に、多様な行政主体が積極的に連携して問題に対応していかねばならない現状を踏まえた「プーリング」(複数の機関が分散して保有する法的その他の資源を連結・統合し、機関間の隙間を積極的にデザインすることにより、行政府の内部から力を集積すること)の必要性について問題提起され、メンバー間で活発な議論を交わしました。

第十回研究会を11月20日に開催しました。

古川貞二郎さん(元内閣官房副長官、元厚生省事務次官)に、複数の内閣における事務方のトップとして、また、行政組織のトップとしての豊富な経験を踏まえ、橋本行革当時の問題意識や背景、これを踏まえたその後の統治機構の成果と課題、とくに、内閣を支える官僚のあり方、そのためのあるべき制度と運用、政と官の関係等について、問題提起をいただき、メンバーと活発な議論を交わしました。

第十一回研究会を2019年2月4日に開催しました。

研究会提言とりまとめについて。

<政策フォーラム>

平成の次の時代の統治機構を考える政策フォーラム「統治機構改革1.5&2.0―次の時代に向けた加速と挑戦」を2019年4月16日に開催しました(主催:政策シンクタンクPHP総研)。
当日は、PHP「統治機構改革」研究会からの報告後、各党の政策責任者である有村治子参議院議員(自民党参議院政策審議会長)、逢坂誠二衆議院議員(立憲民主党政策調査会長)、泉健太衆議院議員(国民民主党政策調査会長)、西田実仁参議院議員(公明党参議院幹事長)より意見をいただきました。その後は各議員からも意見や質問があり、研究会メンバーも含めた活発な議論となりました。

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