【提言報告書】
日本のナラティブ・パワー
― 「2025」とその先への戦略―

政策シンクタンクPHP総研は、外交・国際政治におけるコミュニケーションや対話、イメージや認識の重要性にいち早く着眼し、2007年に『パブリック・ディプロマシー 「世論の時代」の外交戦略』、2014年に『パブリック・ディプロマシー戦略 イメージを競う国家間ゲームにいかに勝利するか』を刊行するなど、政府が行なう広報文化外交や国際広報についての政策研究・提言を行なってきました。

近年になり、新興国の台頭や経済危機、ロシア・ウクライナ戦争などを背景として、国家間におけるナラティブ(物語・語り)の競争は一層激しさを増しています。さらに、人類は今、新型コロナウイルスによるパンデミック、気候変動、国際秩序の不安定化など、一国のみならず全世界に共通する課題(グローバル・アジェンダ)に直面しています。

こうしたグローバル・アジェンダに関しては、国際政治の場だけではなく様々な国際会議などにおいても解決の方策が話し合われています。しかし、残念ながらそうした国際的な言論の場において、日本発のナラティブが存在感を示してきたとは言い難い状況です。政府の取り組みは引き続き重要ですが、日本社会の各界各層が、グローバル・アジェンダについて問題提起し、危機の時代を乗り越えるナラティブを創造し、世界に語りかけていくべきでしょう。デジタル化、SNSの普及等によりナラティブの流通構造が大きく変化し、人々の行動変容や新たな社会問題を引き起こしていることへの対応も必要です。

こうした問題意識のもと、政策シンクタンクPHP総研は、ナラティブの力が改めて注目を集める現在において、国際場裏における日本のナラティブ・パワーのあり方を検討するため、2021年10月にPHP「日本のナラティブ・パワー」研究会を立ち上げました。本報告書はその成果を取りまとめたものです。

2023年にはG7サミット、2025年には大阪・関西万博が日本で開催される予定であり、日本のナラティブ・パワーを飛躍させる絶好の機会と言えます。本報告書を機に、日本のナラティブ・パワーをめぐる議論や活動が力強く広がっていくことを期待しております。

PHP「日本のナラティブ・パワー」研究会メンバー(敬称略、順不同)

 

御立尚資
/京都大学経営管理大学院特別教授
渡辺 靖
/慶應義塾大学SFC教授
金子将史
/政策シンクタンク PHP総研代表・研究主幹
大岩 央
/政策シンクタンク PHP総研プログラム・オフィサー

【内容】

<目次>

エグゼクティブ・サマリー
  • 劣後する日本のナラティブ・パワー
  • 最重要課題は日本発「グローバル言論人」の輩出
  • 必要な施策
はじめに
1. 世界を左右するナラティブの力
  • 1-1 ナラティブとは何か──ナラティブの定義
  • 1-2 なぜ今ナラティブに着目すべきか
  • 1-3 ナラティブ流通の構造変化
2. 日本のナラティブ・パワーの現状
2-1
日本の相対的位置づけとナラティブ・パワー
2-2
日本のナラティブ・パワーの課題
グローバル・アジェンダへの知的貢献の弱さ
現代の文脈に即した世界水準の日本文化論の欠如
ナラティブのチューニング不足
英語等他言語による発信量
グローバル言論人の不在
3. 目指すべき方向性
3-1
求められるナラティブのあり方
3-2
具体的な領域──unique solution for global issuesがカギとなる
テクノロジーと人間の共存
アジアに位置する民主主義国
深い独自の視野からの中国像、文明観
課題先進国(少子高齢化、地方の衰退、頻発する激甚災害など)
千差万別、百花繚乱の地域の姿
生活哲学やライフスタイル
資本主義を再構築する視点
日本の自然観
4. 2025大阪・関西万博を、世界と日本のナラティブを接続する契機に
4-1
あるべき万博の姿とは──「20世紀の遺物」たる万博から脱せよ
4-2
2025大阪・関西万博と日本のナラティブ
4-3
世界的に有名な日本の“ニッチタレント”との協働を視野に
5. 提言──日本発ナラティブをどう高めていくか
5-1
「グローバル言論人」候補を長期的視点で支援する 
5-2
日本のナラティブをグローバルに流通させる経路をアップデートする
日本発の国際メディアを重層的に拡充する
日本のナラティブのプロモーターやエージェントのプロフェッショナリズムを確立する
ナラティブ流通における「目詰まり」を解消し、ナラティブ・コミュニティの接続を容易にする
影響力を持つ海外インフルエンサーをマッピングし、戦略的に働きかける
日本文化の全体的な文脈を解き明かす現代版『茶の本』で世界を触発する
5-3
ナラティブ流通のプラットフォーム創出に向けて──世界への架け橋をつくる
5-4
政府が果たす役割
5-5
世界の価値あるナラティブのキュレーターとして
5-6
「ゴールデンイヤー」の好機を見逃すな
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お問い合わせ

【開催経緯】

PHP「日本のナラティブ・パワー」研究会 (主なテーマ、講師)

〈敬称略、所属と肩書は当時のもの〉

準備会合(2021年9月29日)
研究会趣旨・課題の検討

第1回(2021年11月11日)
日本のナラティブ・パワー

  • ロス・ローブリー(前エデルマン日本支社長・野村ホールディングス執行役員)

第2回(2021年12月14日)
官邸国際広報と広報戦略

  • 松本好一朗(内閣副広報官)

第3回(2022年1月19日)
ナラティブパワー~国際ジャーナリズムの現場から

  • 秋田浩之(日本経済新聞コメンテーター)

第4回(2022年2月22日)
「ダボス」の潮流と日本──グローバル・アジェンダを率いる心技体

  • 高橋雅央(元世界経済フォーラムエグゼクティブコミティメンバー、Gavi, the Vaccine Alliance新規連携推進室長)

第5回(2022年3月16日)
日本のナラティブ・パワー向上に向けて

  • 渡邊裕子(元Japan Society、Eurasia Group日本営業担当初代ディレクター、Greenmantleシニア・アドバイザー)

第6回(2022年6月17日)
「日本のナラティブパワー」と「マネージメント、エージェント、プロデュース」ビジネス

  • 寺田悠馬(株式会社CTB代表取締役)

第7回(2022年6月30日)
研究会の提言骨子検討

第8回(2022年11月2日)
研究会の提言案議論

ヒアリング実施
紀伊國屋書店専務取締役 大野繁治 (2022年3月1日)
元クールジャパン室長 渡辺哲也(2022年8月1日)
前韓国コンテンツ振興院日本ビジネスセンター長 黄仙惠(2022年8月4日)
国際交流基金国際対話部部長 小島寛之(2022年8月9日)
文化庁文化経済・国際課グローバル展開推進室室長 星野有希枝(2022年10月25日)

本報告書は、各研究会での議論などを基に、大岩央(PHP総研プログラム・オフィサー)が取りまとめ役となって作成したものです

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