菅総理への緊急提言

 被災者への支援、国民の安全・安心確保、震災からの復興に向けた「菅総理への緊急提言」を掲載します。

【緊急提言4】
親を亡くした子どもたちのため、福祉と教育の枠を超えた緊急支援体制を

(2011年3月29日掲載)

教育マネジメント研究センター長・主席研究員
亀田 徹

 震災で両親を亡くした子どもたちが多数いるとみられている。だが、被災地の自治体では身寄りのない子どもたちがどこにどれだけいるかの把握ができていない。現地では混乱が続いており、自治体そのものの機能も低下しているからだ。

 厚労省からの要請を受け、北海道や東京都などいくつかの自治体が児童福祉司や児童心理司を被災地に派遣する。避難所をひとつひとつ回って、保護者のいない子どもの有無を確認するという。

 一方で、文科省も、全国の教育委員会に対して教職員の短期派遣を依頼した。被災地の学校教育活動を支援することが目的とされる。厚労省、文科省がともに全国の自治体に協力を求め、福祉職員と学校教職員を他県から派遣しようという動きが進んでいる。

 震災で親を失った子どもへの支援は緊急を要する。学校教職員も福祉職員に協力して避難所を回り、できるかぎり早期に実態を把握してほしい。けれども文科省の通知を見ると、教職員の派遣は「学校教育活動の支援のため」とだけ書かれており、学校教育活動以外の支援を行ってよいかどうかがはっきり示されていない。派遣された職員が現地で活動を行うにあたっては、福祉と教育という枠を超えて協働で子どもの支援を行うよう両省から積極的に働きかけるべきだ。

 さらに、孤児となった子どもたちの受け入れ先が見つかるまでの一時保護の問題もある。いまある一時保護施設は、虐待などで保護された子どもたちの支援で手いっぱいであり、新たに一時保護する余裕はあまりない。突然親を失った子どもたちを一時的に保護し、その世話をするためにも、学校教職員の人手があったほうがよいはずだ。

 学校教職員が一時保護に協力するとなると、短期ではなくある程度の期間にわたって勤務先の学校を離れることになるだろう。クラス担任を持たず、授業の持ち時間数の少ない教職員を派遣対象とするとともに、学校運営に支障が生じないよう勤務先の学校に非常勤職員を置くなどの配慮が必要である。国や自治体にはそのための財政措置を求めたい。

 子どもたちの受け入れ先のひとつである児童養護施設は、職員数の少なさや施設の狭さなどの課題がかねてから指摘されてきた。児童養護施設の基準を見直す方向で厚労省はこの1月から検討を始めている。子どもたちのケアの充実のため、ただちに基準を改定して職員と施設の改善をはかっていただきたい。せめてよりよい環境で子どもたちを受け入れることが不可欠だ。

【緊急提言3】
原発事故収束のビジョンを示すこと

(2011年3月24日掲載)

代表取締役常務・PHP総研 研究主幹
永久寿夫

 水素爆発が次々と起きた震災直後に比べ、原発の状況は、決死の覚悟で冷却活動を行なっている勇士たちのおかげで沈静化の方向に向かっているように見えるが、あいかわらず予断を許さない状況であることは枝野官房長官の会見においても明らかである。むしろ基準値以上の放射性物質の拡散が、福島はもとより茨城や栃木の野菜や東京の上水道などにまで及んでいる状況をみれば、事態はゆっくりではあるが確実に悪化しているのではないかとも推測される。

 チェルノブイリ級のカタストロフはありえないとしても、「直ちに健康への影響はない」程度の影響はどこまで広がり、いつまで続くのだろうか。これは国民共通の疑問であり、それに対する答えの欠如が、ミネラルウォーターの買占めといった利己的行為や野菜の不買といった抑え切れない不安の要因となっているのではないか。先行き不透明の中でまた新たな状況が発生した場合、悲観的なものは混乱やパニックを起こし、楽観的なものは危険を回避できなくなる可能性がある。

 刻々と変わる状況の説明はあるが、それと同様に求められるのは原発事故収束に向けたビジョンである。収束させるには、これから先にどのような手立てがあるのか。収束への最悪のシナリオと最善のシナリオはどのようなものなのか。そして現在はそのシナリオの中のどの辺りにあるのか。そうしたビジョンがなければ、原発事故と共存せざるをえない日常生活の中で、冷静に合理的な対応をするのは難しい。被災現場での活動と原発への対応と二正面作戦の厳しさは理解できるが、ただただ対処に追われるだけでなく、新たな混乱や危機を回避するための努力を怠ってはならない。そして重要なのは、菅総理がみずからの口で国民にそれを説明することである。

【緊急提言2】
現地避難所と全国各地の受け入れ先のコーディネートを

(2011年3月23日掲載)

代表取締役常務・PHP総研 研究主幹
永久寿夫

 全国各地の自治体から申し出があり、すでに多くの被災者が他の地域へ移動を行なっている。さいたまスーパーアリーナのように期間限定のところも多いが、公営住宅の提供や民間住宅の借り上げなどによって、この問題は解決されていくだろう。しかしながら、現在行なわれている被災者の移動は自治体の善意と被災者の希望による自発的な行動であり、全体的な調整が難しく、必ずしも効率的に行なわれているとは言えない。特定の避難所には申し出が多いが、別の避難所には話が来ない。あるいは、せっかく用意しているのに希望者が集まらない。同じ地域の被災者が離れた地域に別々に避難する。こうした問題がある。

 先に菅総理に向けて、緊急災害対策本部長の権限を行使し、国が責任をもって被災地の避難所にいる被災者全員の全国各地への移動を実施すべきと提言した。同様の提言が、民主党内部をはじめ、各方面からもなされているようだが、菅総理には今回のような緊急の際にこそ付与される権限を行使する気配がみられない。だとすれば、被災者の方々に一刻も早く安堵してもらうためにも、そして全国各地の善意を無駄にしないためにも、せめて総務省あたりが主体となって、被災者と受け入れ自治体のコーディネートを行なうか、それも無理なら、その役割を全国知事会などに委ねるべきである。移動に当たっては、可能なかぎり元の自治体や集落のまとまりを維持し、行政職員の一部もそれにともなって住民との連絡などにあたる。足りない機能については受け入れ側の自治体が補完するなどの策が講じられることが望ましい。そうすることで故郷への復帰の道筋も描きやすくなるだろう。

 一方、被災者の方々には心苦しいお願いがある。故郷から離れて暮らすのは辛いこと。とりわけ肉親を探し続けている方々にとっては断腸の思いであろう。だが、現地の避難所に残り続ければ、物資輸送が物理的に困難ななかで、大掛かりな生活物資の供給や医療支援も継続していかなければならない。一時的に他地域に移動することによって、その労力は不明者の捜索や復旧に回すことが可能となる。福島原発事故の収束も含め、復旧・復興には中長期的な取り組みが求められるだろう。辛い決断であるのは承知のうえで、後背地への一時撤退は次への第一歩と堪えていただくことをお願いするとともに、自治体首長をはじめとした政治家の方々には、そのためのリーダーシップを発揮していただきたい。

【緊急提言1】
避難所の被災者全員を全国各地に一時的に避難させること

(2011年3月18日掲載)

代表取締役常務・PHP総研 研究主幹
永久寿夫

 東北関東大震災により亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また被災されたみなさま、そのご家族にお見舞いを申し上げます。そして、被災者の置かれている厳しい環境を改善するために、菅総理に対して次の提案をいたします。

 せっかく救出されたにもかかわらず避難所でお亡くなりになった方がいらっしゃいます。避難された方、また救護活動を行なっている多くの方々が、肉体的にはもとより、精神的にも疲労困憊されています。一方で救援物資がすぐそこまで来ているのに震災後の道路復旧が十分でないため避難所には届かないという事実があります。また、ガソリンや灯油を運搬する巨大なタンクローリーが険しい雪の山道を走行するのには大きな危険がともないます。

 そこで、現在、希望者にかぎって他県の避難所等へ移動するという動きがありますが、総理は災害対策基本法第28条に基づく緊急災害対策本部長の権限を行使して日本全国の自治体に要請し、避難所で不安な日々を過ごしている40万人ともいわれる被災者全員に、仮設住宅などが整備されるまでの間、一時的に全国各地に避難してもらい、空室の公営住宅などの活用によって、より安心で健康が保たれる環境を提供すべきです。

 被災者の方のなかには現場を離れたくないという方もいらっしゃるでしょう。ですが、故郷から離れてもそれは一時的なことですし、それによって政府による救助・復旧活動もさらに本格化するはずです。もちろん、移動に際して家族が離れ離れになることがないよう、また肉親を探していらっしゃる方々に対しては細心の配慮がなされなければなりません。

 すでに全国の自治体から被災者受け入れの申し出があります。この国難に当たって日本各地が力を合わせて助け合おうとしているのです。政府はこの国民の力、地域の力を信頼すべきです。また、そうすることによって政府は原発への対応にも一層の取り組みができるようになるのです。菅総理、決断をするのはいまです!

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