家や学校を失った子どもたちに勉強の場を

特定非営利活動法人 NPOカタリバ 代表理事 今村久美

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コラボ・スクール「 大槌臨学舎」に掲げられた看板

子どもたちの未来のために、 できることはすべてしたい
 
 女川向学館開校に遅れること5カ月、コラボ・スクール2校目となる大槌臨学舎が開校する。高校受験3カ月前という時期もあり、最初は中学3年生だけに特化して学習支援を行った。スタッフも子どもたちも、とにかく必死だったという。いまでも大槌臨学舎に通う高校2年生の吉田くんは、当時をこう振り返る。
 
「震災があったのは、中学3年生に進級する直前で。自分の家も被災して仮設住宅に移ったんですけど、やっぱり狭いし、周りのテレビの音も聞こえてくるし、ぜんぜん勉強に集中できなかった。そんなところにコラボ・スクールができて、友達と一緒に勉強できるし、わかりやすく教えてくれるし、受験のときは本当に助けてもらいました」
 
 大槌町にはもともと学習塾がほとんどなく、塾に通った経験のない子どもや親が大半を占めていた。コラボ・スクール設立に際して町の協力でアンケートをとってみたところ、通塾率は10%を切っていた。教育委員会にも、「この町で、そんなもの開いても、来る子なんていないよ」と言われたという。それでも教育委員会の理解を得て公認をもらい、学校で告知されるところまでこぎ着けた。無料で生徒を募ってみれば、学びの場を求めてコラボ・スクールに通う生徒は100人にのぼった。
 
「震災がきっかけだったのか、それ以前からだったのか。保護者の方たちのお話を聞いていると、子どもの未来のためにできることはすべてしたい、という思いを強く感じました。だから、これまで塾に通ったことがない子どもたちまで、コラボ・スクールに来てくれたんだと思います。いまでは教育委員会とも、いい関係を築けています。立ち上げのときは、教育委員会や役場って、なんでこんなにたらい回しなんだろうって思ったこともありました。けれど、震災直後は、いろんな人たちがNPOという肩書きで、それこそ大量に被災地にやってきていました。町の方でも、誰を信じていいのかわからなかったんだろうと、いま振り返ってみると思います」
 
 いざ開設、といっても場所選びには苦労した。今年10月に新校舎がオープンするまでは、町の公民館を借りて授業。どうにか津波に耐えた施設で、倒壊こそしなかったものの浸水被害を受けていた。そんな場所に子どもを通わせることはできないという保護者や、すぐ近くで震災に遭ったトラウマからその辺りに近づきたくないという子どもたち。ほかに間借りできる場所がない中での、やむを得ないスタートだった。
 
 スタッフの住む場所を見つけるのも大変だった。仮設住宅は被災した住民の仮の住まい。とくに大槌町では町内の仮設住宅に入れない住民もいたため、とても入らせて欲しいといえる状況にはなかった。いまでこそ、一人一部屋を確保したシェアハウスに落ち着いているが、最初の1年ほどは、プライベート空間などとてももてなかったという。
 
「和室に布団を敷き詰めて寝るんです。自分のスペースって言えるのは布団の上だけ。一番多いときには15人で一軒家に住んでいました。だけど、滞在できる場所が見つかっただけでも、運がよかったと思います」

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