コロナ禍は見過ごしてきた課題を一気に進めるチャンス
4、オンライン授業の可能性
――子どもたちはオンラインに適応していますか?
平岩:子どもたちの適応は本当に速かったです。おもしろかったのは、小学校でZoomで授業をしていたら、「Zoomごっこ」のような遊びが流行りだしたことです。先生役と生徒役に分かれて、子どもたちが授業ごっこをしているんです。ブレイクアウトルームも軽々と子どもが使いこなしています。
いまの小学生は本物のデジタルネイティブですから、放課後の遊びでもタブレットを使って映像をつくったりしている子も多いですね。大人とは感性が違いますし、タブレットもどんどん進化して、直感で操作することができますから。
幼稚園生も使いこなしていますよ。ミュートとか当たり前に切り替えています。
――アイコンの感じでわかるんですね。アフタースクールは低学年を中心に小学生が対象だと思っていましたが、幼稚園生向けのコンテンツも提供しているんですか?
平岩:幼稚園のアフタースクールを2つ運営していて、おうちにいる幼稚園児向けにオンラインでのプログラムの提供を少しずつ始めました。もちろん、親御さんが横にいながらということになりますが、最初につなぐところだけやってしまえば、あとはもう親御さんが席を外しても成立しています。
――子どもたちの学習状況などはどうですか? 今年小学校に入学した新一年生は、入学式もできず、ずっと休校という状態が続いていたと思います。ある程度の年齢からなら、教科書を読んでおくとか、プリントを解くといった自主学習もできると思いますが、基礎的な読み書きや四則計算をこれから習う子では、それも難しいですよね。
平岩:一年生は今回保護者の方が特に大変だったと思います。また読み書きのスタートも例年と比べるとどうしても遅れがあると思います。でも、十分取り戻せるんじゃないでしょうか。ここからどうするかですよね。
オンライン授業は、通常の授業のペースと比べると6割くらいの進度という感覚です。どんなにやっても、オンラインで6時間目まできっちりやるのは難しいので、通常の3,4時間目くらいまでの感じですね。
しかし、いい意味での余白が生まれるので、いろんなことを考えたり、復習も含めた自習をやったりしていけば、取り戻せないほどの遅れを恐れなくてもいいのではないかと思います。やっぱりリアルに学校に来てもらったほうが、学習の生産性は高いと思いますが、オンラインだと通学時間やそれに伴う準備時間は得をしますし、精神的な安息を得る子もいるでしょう。そして何と言ってもオンラインは世界中につながりますし、オンラインだからこそ授業に参加してくださる社会人などもいます。だから、ハイブリッドが理想だと思います。
――オンラインとリアルでは、子どもたちへの目の行き届き方は違いますか?
平岩:オンライン授業でよく言われていたのは、ふだんなかなか手を上げられない子でも、チャットで発言しやすいということ。「いまのところわかりにくかった」といったコメントが入れば、先生もそれを確認しながらフォローしていけます。子どもたちからのフィードバックをもらいながら授業の軌道修正を繰り返していくという点ではオンラインのやりやすさもありますし、当然リアルにはリアルのよさがありますし。
コロナが収束してからも、私は週に1日くらいはオンラインで授業する日があってもいいんじゃないかと思っているんです。もう少し少ないペースでもいいから、とにかく続けていくべきです。これでいきなりコロナ前に戻って、リアル100-オンライン0にしてしまうと、また次に災害が起きたとき同じ混乱が起きてしまいます。それだけは大人の責任で避けていきたいです。
――避難訓練じゃないけど、練習として、という感じですね。
平岩:そうです。そう考えると、生産や流通が通常モードのときにデバイスをそろえておくべきだし、どの家庭がつながりにくいかといったことも確認しておくべきです。デバイスに関しては、予算を組んで購入する方法ももちろんありますが、現物の寄付を募るとけっこうな数出てくるんじゃないかと思うんです。タブレットが家に余っているという人もいますよね。そういう方や企業にお願いしたら、提供してくださる方もいるのではないでしょうか。
――ガジェット好きだと、最新モデルが出るたびに買い替えるという人もいますからね。
平岩:一人一台以上のデバイスがある家庭もありますよね。そういう方にお願いして使っていないデバイスの提供をお願いしたら、持っていない家庭の分もカバーできるのではないかと思っています。
*第二回「教育現場と子どもの世界のニューノーマル」へ続く
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは累計のべ100万人を超える。グッドデザイン賞を4度受賞。2019年6月より、学校法人新渡戸文化学園の理事長に就任。