コロナ禍は見過ごしてきた課題を一気に進めるチャンス

放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩国泰 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

3、ふだんからやっていないことは緊急時にもできない
 
――休校中の子どもたちの学習支援に関する課題として、物理的にプリントを配布している学校が多いと聞いていますが、オンライン授業に切り替えるにしても、デバイスを持っていない家庭や固定回線を引いていない家庭も少なくないと言われています。さらに3月、4月はZoomのセキュリティ面の脆弱性が懸念されていて、学校現場や行政では使いにくかったそうですね。
 
平岩:そうですね。保護者の方まで含めれば、ご家庭になんらかのデバイスはあるケースが多いですし、回線も大体なにかしらある。それでもどうしても対応できないというご家庭も一定数出てはきますが、そういう子たちは学校に来て、学校のデバイスや回線を使えばいいのではないかと思っています。全員が同一のデバイスでなくても、スマホがあれば画面は小さくても見られますし、テレビにつないで映すこともできます。
 
 それでもどうしても難しいという場合は、個別にフォローできると思うんです。私たちは色々な学校の対応を今回見ましたが、対応ができた学校とできていない学校では、完璧でなくてもできることからやろうとしているか、完璧でなければ始められないといってできない理由を探そうとしているかという姿勢の違いが最初にあるように思えました。
 
――みんな同じラインにそろうまで何もできません、とするのか、できるところからやってみて、零れ落ちたら個別にフォローしますとするかの違いは大きいですね。
 
平岩:結果的に、今回は私立校と公立校の対応の差が大きかったです。私立は学費もいただいているので、なにかやらなければならないというプレッシャーがあったのかもしれません。それがスタートラインだとしても、やれることから探すか、できない理由を探すかという姿勢の違いが、今回は私立と公立の間で、対応に大きな差を生んだのではないかと思います。
 
 
――私企業に近い私立の学校のほうが、理事長の考えで動けるので、意思決定は速そうですね。
 
平岩:ある私立校では14時半まではそれぞれの教室で先生が子どもたちを見て、14時半以降はアフタースクールで、という対応を3月からずっと続けていました。公立校でも一部そのように対応している市がありました。登校している子どもたちも少ないので学年でまとめていることが多かったのですが、午前中はクラスメイトと先生と教室で過ごし、放課後はアフタースクールで、と一日の中で変化のある過ごし方をできたことはよかったと思います。誰かに過剰に負担がかかりすぎるのはよくないし、子どもたちも、密を避けるということももちろんありますが、固定した部屋や固定した関係で一日中いるのはつらいですから。
 
 結果的にはそれが理想のモデルだったと思います。学校は文科省、学童は厚労省と一般的には管轄が違うので、公立の場合はそれを超えた方が判断しないとこのような連携は生まれません。私立はその縦割りの壁がないことは有利でした。一方公立でも市長や教育長のリーダーシップがあれば十分に可能でした。
 
――そうした連携のかたちはコロナの前からできていたのでしょうか?
 
平岩:そうですね。ふだんから学校との関係ができていたし、学校中の教室を使ってアフタースクールをやるのも当たり前だったので、人の面でも場所の面でも、連携が日ごろからできていました。そうなると緊急時の対応も早いですよね。
 
 逆に言うと、ふだんからやっていないことは、緊急時に急にはできませんよね。
 
――給付金のこともまさにそうですよね。マイナンバーと口座を紐づけておけばよかったのに、それがなかったから、本当に困窮している人にいきわたるにも時間がかかっています。
 
平岩:マイナンバーも本来はこういうとき使えるように、平時から準備しておくべきだったのだろうと思います。導入のときにつまづいてしまったのが今の状況を生んでしまっていて、それでも主旨を説明してしっかりと進めておくべきだったと思います。オンライン授業も同じではないでしょうか。
 
――オンライン授業が平時から整備されていれば、不登校でも授業を受けられるかもしれないし、毎年のインフルエンザなどで学級閉鎖になっても授業を止める必要もなくなりますよね。
 
平岩:最近の夏の暑さを避けるためや、自然災害などで学校が再開できないときにも使えますし、オンライン学習ならではの利点としては、外国のゲストに参加してもらうとか、ほかの学校や学年とつながって同時並行で授業を行うこともできますよね。
 
 そう考えると、オンラインはオンラインでこれからも使っていって、リアルの授業とハイブリッドしていくことは絶対に必要ですよね。コロナ前までは、構想はありながらも、ちょっと脇に置いておいて、という感じだったと思いますが、一気に進めるチャンスだと思います。
 
――学校でなくても、企業の会議や営業活動、在宅勤務など、オンライン化はできない、うちでは無理といっていたところもやらざるをえなくなって、やってみたらこれまで挙げられていたできない理由は思い込みだった、ということに気が付いた面も多々あったと思います。
 
平岩:その通りだと思います。この取材もまさにそうですよね。すぐつながれて、お互いに移動の時間や交通費を使う必要もない。大きいですよね。
 
――アポイントはむしろ取りやすくなったとさえ思います。

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