思いをアクションにつなげられる世の中に

gooddo株式会社 代表取締役社長 下垣圭介 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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下垣さんのインタビュー第1回、第2回はこちら「いちばんハードルが低い社会貢献の仕組みを提供したい」「ソーシャルメディアが消費行動を変える
 
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――事業を始めてから、気づいたことなどはありますか?
 
下垣:大変なことはたくさんあります。もともと僕らがやりたいと思っているのは、社会貢献に興味がない人に興味を持ってもらうことですので、そのためにいろいろとチャレンジを続けていますが、それが思っていた以上に難しいなと痛感しています。
 
――インターネットの難しいところは、受動性に欠けるところじゃないかと思うんです。インターネット上に存在する情報って、基本的には能動的に検索をかけないと手に入りませんよね。それがネックなのかなと感じます。
 
下垣:そうですね。インターネットの活用有無に関わらず、ソーシャルグッドを日常の中にいかに溶け込ませることができるか、そのようなスキームをどうつくっていくか、僕らが今後取り組んでいかなければならないひとつの大きな壁ですね。
 極端に言うと、最初のきっかけは無意識でもいいくらいだと思っています。「社会貢献のつもりはなくやった行動によって、気づいたら社会貢献ポイントが貯まっていた」みたいなイメージで、生活の中に織り込んでいけることが理想です。自分でわざわざ情報を探して、応援の場に来てくれる人は既に社会貢献へのモチベーションが高い人なので、僕らはそこまでのモチベーションはない人たちにもっとリーチしたいと思っています。
 
――わざわざ社会貢献のためにお金や時間を割くという意識を持たなくても参加できるよう、ソーシャルグッドのすそ野を広げる。
 
下垣:その通りです。社会貢献に興味がないわけではなく、機会があったらやりたいとは思うけど、わざわざ自分から調べたり探したりするほどのモチベーションはなく、結果何もできていないという人は、実はたくさんいると思います。
 それがとてももったいなく思うと共に、ポテンシャルだと思いました。一人が100やるのではなく、1とか0.1でもいいから何か行動し、それが100人、1000人分集まれば、強大なパワーになりますよね。
 たとえば寄付を集めるとしても、10万人から1,000円ずつ集めても1億円になるけど、僕は1億人から1円ずつ集められるモデルをつくったほうが、一人ひとりの負担も小さいし、持続可能性があると思うのです。寄付の目標金額が100億円になったとしても、1円出していたのが100円になるほうが、1,000円を10万円にするより、可能性が高いじゃないですか。
 僕はそういう仕組みをつくりたいと思っています。難しいですけど。

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――「gooddo」で特にうまくいった取り組みには、どんなものがありますか?
 
下垣:動画を使ったNPOの活動PRですね。NPOをまだ知らない人に興味を持ってもらうために、動画をFacebookとかソーシャルメディア上で発信しました。動画がシェアされることで、そのNPOを全く知らなかった人の目に入るようになり、そこから興味を持ったり、gooddoのサイトにやって来たりする人の数はかなり伸ばすことができました。この取り組みを通じて、長い文章で説明してもなかなか読まれにくいですが、動画であれば「ちょっと見てみようかな」と思ってもらいやすいということと、多くの人が社会課題とかその解決法について興味がないのではなく、適切なタイミングと方法でしっかりとアプローチできれば、興味を持って参加してくれるということがわかりました。
 そういうポテンシャルはあるのに、これまでは何もできなかった人に情報を届け、行動させることができ、gooddoをやってよかったと思いましたし、もっともっと伸ばしていきたいと思いました。3年間やってきて、手応えはすごく感じています。
 
――東日本大震災は、日本人の寄付や社会貢献に対する意識や動向を大きく変えたと言われていますが、この数年間活動されてきて、変化を感じることはありますか?
 
下垣:たくさんあると思います。
 そのひとつとして、ここ数年でのソーシャルセクターの成長ということが言えると思います。組織的にも財務的にも、また、優秀な人材が入って来ているということからも、この5年間で非常に強くなっているなとすごく感じます。今後5年後、10年後にはもっとパワフルなセクターになっていると思うし、人気就職先ランキングにNPOが入ってくる日もそう遠くはないのではないかなと思っています。
また、世の中のマインドも、震災機に大きく変わったと思いますが、それもソーシャルメディアの存在が大きいと思います。
 ソーシャルメディアが普及したことで、それまではNPOや個人が被災地に行っても、現地の情報を自分たちのブログとかウェブサイトしかあげられず、そのページにたどり着ける人(=高い関心を持っている人)にしか情報を届けられませんでしたが、今は、現地の写真をFacebookやTwitterにあげることで、どんどんシェアされ、情報を拡散することができます。そして、普段は社会貢献にあまり興味はないけれど、震災の被害を見て自分も何かしたいという気持ちに駆られた人が、たまたま開いたFacebookで情報を見て「寄付したいな」という気持ちになり、応援のアクションを起こすことができます。
 結局、人の意識が変わっただけではなく、情報を伝えられる、また知ることができる環境がこの数年で整ってきたことが大きいと思います。また、スマートフォンの通信速度が劇的に改善されたことも背景にあります。発信する側も受け取る側も、ストレスなく情報をやり取りできるようになった。そうした環境の変化が、人々の意識や行動に与えている影響も大きいと思います。
 今年の4月に起きた熊本の震災のときは、gooddoのアクセスもとても多かったです。本当に大勢の方が関心を持っているのだということがよく分かりました。
 
――情報を受け取りやすくなったし、gooddoの取り組みで言えば、クリックひとつで支援金を送ることができるし、いまはクレジットカードでも寄付ができますよね。情報を受け取ってすぐ、応援したい気持ちが高まっているときに、ストレスやハードルなく応援のアクションがとれる。情報と人、情報とアクションをつなげられるようになったことは大きいですね。

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――今後のgooddoとしての課題や目標、下垣さん個人としてつくりたい社会の姿はありますか?
 
下垣:僕が究極やりたいことは、「一人ひとりが社会課題を解決する力を持っていることを自覚し、行動できる社会」をつくることかなと思っています。
僕も6年前までそうだったのですが、「自分には社会を変えることはできない」と思っている人が大半だと思います。
 確かに一人ひとりの力は弱いかもしれないけど、自分の行動が課題解決の一歩になっていることを、みんなが考えられるような世の中を、僕はつくりたいと思っています。
 何を課題とするかはその人が自分で決めたらいいし、アクションの手段は、寄付だったり投票だったり、いろいろあると思います。だけど、その人にとっての課題(どういう社会にしたいか)に対して、0.1でもいいから何かやれるような素敵な世の中にしたいと思います。
 
――自分の社会貢献度を実感できることは、社会の一員であるという自覚にもつながっていくでしょうし、そうすると、居場所感のようなものもきっと出てきますよね。
 
下垣:そうですよね。gooddoを通してNPOを知ってくれた人で「無料で応援」をした後に、直接その団体に寄付をする人は何人もいるそうです。そういう方は、寄付によって、役に立てていることを実感して、ポジティブになれるらしいです。やっぱり感謝されるのは、気持のいいことですから。そういう出会いをたくさんつくれたらいいなと思っていますね。
 
――gooddoの海外展開はされないんですか?
 
下垣:行きたいですね。
 
――アメリカとかは寄付の市場がものすごく大きいですよね。
 
下垣:gooddoのような仕組みは、アメリカでは必要ないかと思います。
 
――すでに寄付が当たり前の文化になっているから、新たなスキームは必要ない?
 
下垣:そうですね。必要がないというと極端かもしれませんが、アメリカにはすでに出来上がっている仕組みがあるので、もっとほかに必要としている国があると思っています。
 
――どちらかというと、これから公共セクターが育って行くような国ですね。
 
下垣:要は高度経済成長が終わり、いまある仕組みを変えていかないといけないなというフェーズの国ですね。
 経済成長が鈍化してきて、営利企業と行政の隙間を支えるような基盤がない、いまの日本のようなフェーズに5年後、10年後来る国が、いくつもあると思うので。
 その頃までに日本でちゃんとモデルを作り上げて、それを持って行けたらいいなと思います。当然それは僕一人でも、gooddoだけでもできる話ではないので、みんなで一緒にがんばりつつ、我々もそれなりに貢献したメンバーとして、歴史の教科書に載りたいな、と思っています(笑)。
 
――本日はありがとうございました。
 
下垣 圭介(しもがき けいすけ)*1984年生まれ。大学卒業後、株式会社セプテーニに入社し、インターネットマーケティング事業を担当。2010年、ソーシャルメディア事業部の立ち上げに携わったことをきっかけに、ソーシャルセクターの可能性に気づき、誰もが気軽に社会貢献に参加できる仕組みとして、2013年に新規事業として社会貢献プラットフォーム「gooddo」を立ち上げる。2014年10月に同事業を法人化し、代表取締役に就任。
 
【写真:長谷川博一】

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