柔軟な選択肢が提供される社会をめざして
――最近NPOの方から、現場の活動だけでなくアドボカシーが重要だというお話を伺うことが多いように思います。
工藤:そうですね。北海道から沖縄まで課題を解決しようと思ったら、やっぱり資本が足りないですからね。小さな取り組み、解決モデルを広く社会に広げていくためには政治に働きかけたり、行政と議論をして法律、制度、政策の立案や変更にも働きかけていかなければなりません。
もちろん、組織や個人それぞれに得手不得手がありますので、自団体の活動の強みを持ち寄って、みんなでよい方向に向かっていこうという動きが出てきたのだと思います。
若者支援って、2000年初頭から始まった新しい取り組みなので、利権はもとより、ほとんど何も社会的基盤がないんです。
法律はいくつかできたんですが、できたばかりなので、広く基礎自治体までそのビジョンが浸透し、具体的なアクションにつなげていく途上だと思っています。まだ若者支援分野の組織がひとつになっていく大きなうねりはこれからだと思っていますが、前述した地域若者サポートステーションが行政改革のなかで消失しかけたとき、関係者が一枚岩となって、統一見解を出したり、個々が持っているコミュニケーションルートを使って政府、行政の関係者にアクセスしたりしました。危機的状況で一丸となれたわけですから、前に進めていくためのアクションでも手を携えることはできると思います。
――長い間活動を続けて来られて、団体としての活動ステージや問題意識も少しずつ変化してきていると思いますが、最後に、工藤さんが目指している社会の姿を教えてください。
工藤:理想の社会はあります。社会に参加したい、働きたいと思っている若者が、その想いをスムーズに実現できる社会です。
もうひとつは、学校に行けなくなったり、仕事に就けなくなったりしても、もう一度やり直したいと思ったときに、柔軟に選択肢が提供される社会です
ただし、既存の「働く」のなかに選択肢がない可能性も十分にあります。今後の技術革新や新たな「働く」の在り方を含めて、誰もが無業になる可能性がありながらも、そこから抜け出しやすい社会にしていきたいです。ほかの多くの人と同じように既存の仕事の枠組みの中で働くことに問題がないのであればいいのですが、そうじゃない場合に、こちらがいくつかの選択肢を提示できるような状態をつくっていきたいなと。さらに、そこで提示されたものをどれも受けないという選択肢も担保しておかなくてはいけない。提示している選択肢がすべて間違っている可能性もあるので、どれも受けないという人には、その人が受けたいと思える選択肢が見つかるまで提示し続けなければならないんじゃないかと思っています。
そうした多様な選択肢が社会的に実装されるよう、今後も、活動に取り組んでいます。
――本日はありがとうございました。
工藤 啓(くどう けい)*認定NPO法人育て上げネット 理事長
1977年、東京生まれ。米ベルビュー・コミュニティー・カレッジ卒業。2001年に任意団体「育て上げネット」を設立し、若者の就労支援に携わる。2004年にNPO法人化し、理事長に就任。現在に至る。著書に『NPOで働く- 社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる――“はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)、『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(共著・朝日新書)など。
金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員、「一億総活躍国民会議」委員等歴任。
ブログ http://ameblo.jp/sodateage-kudo