柔軟な選択肢が提供される社会をめざして
工藤さんのインタビュー第1回、第2回、第3回はこちら:「ビジネスで若者支援に取り組みたい」「小4から39歳まで支え続ける」「小さな変化が大きな影響を与える事業」
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――そうした小さな変化を積み重ねていくことで、また次の可能性に期待が持てるようになっていきそうですね。
工藤:幸せには天井がないと思いますが、重要なのは本人の変化なので、本人がもっと違うステージを望めば応援しますし、「今のままでいい」ということであれば、それが明らかに将来リスクを背負うものでない限り、それでいいかなと思っています。この活動をしてきてよかったなと思うのは、そうした本人や周りの方の変化や反応でしょうか。
また、昨年10月に始まった「一億総活躍国民会議」に入れていただいて、いろいろな提言をさせていただきました。6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」実現に向けたロードマップのページが、「若者の雇用安定・待遇改善」から始まるんですね。高齢者対策よりも、若者支援が先にきた。これまでなかったことです。それだけこの問題の社会化が進んできたんだなということを、しみじみと感じています。
――ひきこもりや無職の若者に対しては、「甘えている」「自己責任だ」という根強い批判もあります。正直に申し上げると、私も本当に「働けない」のか、心身に障害があるわけではないのなら、自分に都合のいい仕事を選んでいるだけなんじゃないのかという疑問が捨てきれなかったんです。
というのは、いま順調にレールに乗っているように見える人たちの中にも、必死の努力でしがみついている人はかなり多いと思うんですね。無業じゃない人がみんな自分のやりたい仕事に就けているわけではなくて、やりたい仕事ではないけど、生活のためにできることをがんばっているという人もたくさんいるはずです。
就業状況には学歴が関係していて、学歴格差や教育格差は保護者の所得格差によって生まれるという格差スパイラルも承知していますが、東京をはじめとする大都市圏以外では、公立高校が県のトップ進学校という地域も多いですし、そうした高校に進学する子たちの多くは公立の小中学校出身ですよね。少なくともそうした地域では、家庭の経済状況に関わらず高校卒業までの学習の機会はある程度平等に与えられていると言えるのではないかと思うので、その機会を活かせるかどうかは環境よりも本人の努力による部分が大きいんじゃないかなと。
なので、「彼らのために」そうした若者を支援しましょうと言われても、違和感があったんですが、工藤さんと西田亮介さんの共著『無業社会 ―働くことができない若者たちの未来―』(朝日新書)を読んで、彼らを支援する必要性が、ストンと腹に落ちたんです。
無業になった経緯や就職できない理由についてはいまひとつ納得しきれていない部分がありますが、「支援が必要であるのは、無業の若者たちのためだけでなく、社会構造を見たときに、そうすることが自分たちのためでもあるからだ」ということが、すごく理解しやすかった。
工藤:昔はそういう話はしていなかったんです。ロジックやソリューションの考え方のほうが理解を深めていただける方もいらっしゃいますので、たとえば、社会コストの観点や多様なベネフィットとリスクの話をすることにも取り組んでいます。常に勉強しながらですが。自己責任なんだから放っておけというのはいいんですが、彼らを働けない状態のまま放っておくということは、社会保障の枠組み、つまり税金で支えていくということになります。個人感情として納得できないことは往々にしてあると思いますが、社会全体の視点や将来的な観点で考えたとき、やっぱり若者を支援することも大切であると思っていただければと考えています。
現在の社会構造が変わらないのであれば、みんなで集めたお金で、支え合うわけですから、どんなかたちであれ、支える側の人が増えたほうがいいですよね。テクノロジーも進化していて、ALSで全身動かせないけれど、まばたきや目の動きだけで文字を打てるようになっていたりもします。そうしたテクノロジーの助けもあって、これまでは支えられる側であった人も、支える側になっていく可能性だって広がっています。過去はどうあれ、さまざまな形で活躍しやすい社会に向かっていると思います。
ただ、ひとつ危惧していることがあります。社会を変えていくことを議論するイベントなどに呼んでいただくこともあり、そこには本当に優秀な方々が参加されていて、海外の事例などを参考にしながら議論をしています。100人単位で人が集まっている会場で、「この中に、生活保護を受けている友達の電話番号を知っている人はいますか」「前科を持っている友人はいますか」「少年院に入ったことのある仲間はいますか」と訊くと、ほぼ手が挙がらないんです。つまり、社会課題を解決していく、社会をアップデートしていこうという集いの場に、その対象として位置付けられている当事者や当事者が身近にいるひとがいない。一方で問題の当事者たちの側に、手を差し伸べてくれる人たちがいるかというと、それもあんまりいないんですよね。
私たちは最近、少年院など現場を見ていただく機会を創っています。実際に見て、考えて、できれば一緒に活動をしてほしいと思っています。普段、少年鑑別所と少年院と少年刑務所にいる子どもたちのことを想い、そもそも中はどのような構造になっていて、どんな生活をしていて、更生教育として何が提供されているのかを考えることは少ないと思います。それでも一度支援現場に行くと、大きな気づきやきっかけがうまれていく。そういう活動も広げていきたいです。
やっぱり問題を社会化していくにあたって、当事者を知ってもらう、当事者に会ってもらうということをやっていかないといけないなと。もし、社会課題や、困難を抱えている当事者の方との接点が生まれづらい環境であれば、意識的につながりの機会を作っていくのも私たちの大きな仕事だと思います。