企業が良心を持って行動すれば、社会はきっとよくなる

NPO法人 ブリッジフォースマイル 代表理事 林恵子

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――研修をきっかけにブリッジフォースマイルの活動を始められたときは、まだ林さんはパソナにお勤めだったんですよね。

:団体を立ち上げた2004年の時点ではまだ勤めていたんですが、2005年の6月に法人を設立して、その月末に辞めました。

――退職はすぐ決断されたんですか?

:そうですね。私はすぐにでもNPO活動に一本化したくて、夫からは「もうちょっと冷静になれ」と止められていたんですが、最終的に、「私財は持ち出さない」という約束で、NPO活動をやってもいいよと言ってくれたんです。「私財を活動につぎ込むようなことになると家族が困るから、そこだけ守ってくれれば」って。仕事を辞めて完全に無償ボランティアでやるということは、収入を削って支出を増やすことになるので、本当はだめだったんですけど、実は会社を辞めたのはちょっとフライングしています(笑)。ある施設からマニュアルづくりを受託できそうだということになって、収入の目処が立ったと思った段階で会社は退職したんですが、実際はその受託が難航して思った通りにはいかなくて、最初は無給状態が続いていたんです。夫には内緒にしていましたけど(笑)。

 夫は、私がバーッと突っ走りそうになると、「ちょっと待て」と言うタイプ。週末も活動で出かけていることが多いので、そういうときに笑顔で「がんばっておいで」と送り出してくれるというわけにはいかないのですが、家族のことも大切にできるようにバランスよくやっていかなきゃいけないな、と軌道修正するようになりました。

――すごくバランスのとれたご夫婦なんですね。ブリッジフォースマイルのオフィスは大手町のパソナ本社の中に置かれているということですが、退職された会社の中に、そのままオフィススペースを間借りしているというのも、すごいところですよね。

:それはもう、ひとえに社長の懐の深さのおかげです。社風としても、チャレンジを応援してくれる空気があって。

 最初、本当は社内でやりたいと思っていたんです。そうしたらお給料をもらいながら活動できますし(笑)、パソナのCSR活動として提案してみたんですが、「パソナのCSRには、方向性としてそぐわない」ということで認められなくて。だったら会社を辞めて自分でやろうと決めて、社長のところにご挨拶に行って「こういうことをやろうと思っているんです」ということをお話したら、「それ、おもしろいからうちでやったらいいじゃないか」と言っていただいたんです。

 それでそのままちょっと席だけ移動して、以来ずっと、オフィスはそこに。コピー機や文具類、会議室なんかも使わせていただいて、そういったものの調達にはなにひとつ困らなかったので、本当にありがたいと思っています。社内にある大きなホールでは、イベントやセミナーもやらせていただいています。

――大手町という都内のビジネスの中心地というロケーションですし、パソナのような大きな企業のバックアップがあるとなれば、安心感や信頼感が高まりそうですね。

:そうなんです。いまもそうですが、とくに活動の最初の頃は本当に、すごく頼りになりましたし、パソナの同僚だった仲間たちが、「こんな会社があるよ」と協賛してくださる企業を紹介してくれたり。いまでも協賛してくださっている味の素さんやAOKIさんは、パソナのつながりでご紹介いただいた企業なんです。

――前職で培ったものがしっかり生かされていて、素晴らしいですね。ボランティアさんにも、パソナの社員の方が多いんですか?

:最初はすごく多かったですね。ボランティアのうち半分くらいがパソナの社員だったと思います。その後は、NTTデータの方が一気に増えた時期もあって。最初は口コミで広がっていくので、同じコミュニティの方が増えていくんですよね。でも、ホームページで募集を始めた3年目くらいからは、そういった偏りはなくなりました。

 いまは、いくつかの企業さんに伺って、社内ボランティア説明会をさせていただいているんです。ランチタイムに、ご飯を食べながら活動の説明を聞いていただいたりして、ボランティアを募っています。

――目の前でこうした活動をしている人がいればやっぱり関心をもつだろうし、しかも楽しそうにやっているのを見たら、いいな、自分もやってみようかな、と思う人が増えそうですね。

(第4回「子どもたちのために大人が力を合わせられる社会を」へ続く)


林 恵子(はやし けいこ)*1973年、千葉県生まれ。大学卒業後、大手人材派遣会社パソナに入社。 子育てとキャリアの両立に悩む中参加 した研修をきっかけに児童養護施設の課題に気づき、2004年12月、「ブリッジフォースマイル」を設立。2005年6月にNPO法人化し、パソナを退職。 養護施設退所者の自立支援、社会への啓発活動、人材育成を活動の3つの柱とし、さまざまなプログラムを提供している。
 
【写真:遠藤 宏】

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