みんなで協力し合って課題を解決する社会へ

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆

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鵜尾雅隆さんのインタビュー第1回、第2回、第3回はこちら:
『共感×解決策』の掛け算で社会を変える
社会的投資の日本型モデルづくりを目指して
『人の役に立ちたい』という気持ちをかたちにする寄付教育
 
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――鵜尾さんは日本ファンドレイジング協会の代表理事を務める傍ら、株式会社ファンドレックスの代表取締役も務めてられていますよね。ファンドレックスではどんなことをされているんですか?
 
鵜尾:私がJICAを辞めた後、最初に立ち上げたのがファンドレックスなんです。我々はソリューション・プロバイダーと言っていますが、NPOやソーシャルビジネスが成長していくために必要な技術的なサポートをするコンサルティングの専門集団です。
 戦略づくりのコンサルティングと支援者とのコミュニケーションを効率化するためのデータベースの提供が大きな軸としてありますが、もうひとつ、ニューディア(newdea)という社会的インパクト評価をするためのクラウドサービスの運営をしています。
 ニューディアは世界130カ国以上で活用されているサービスなのですが、なかなか日本語版が出なかったので、我々が代理店となって、日本でも使えるようにして運営しています。こうした社会に必要なツールやソリューションを提供することが、ファンドレックスの役割です。
 
 こうしたNPOやソーシャルビジネスに特化したコンサルティング会社は、日本にはまだ非常に少ないのですが、アメリカには数百社存在していて、ひとつの業界となっています。7年前、社会のお金の流れを変えようと考えたときに、そもそもNPOやソーシャルビジネス側のコミュニケーションのレベルが欧米と比べてあまりにも低かったので、まずはそれを具体的に改善するサポートに取り組んで、いい成功事例を生み出していかなければならないと思いました。当時は周りを見渡してもほとんどどこもやっていなかったので、自分で立ち上げるしかないな、と思ってファンドレックスを起業したんです。
 そこで成功事例を誘発してNPO業界を変えていこうということで、これまで100団体以上お手伝いさせていただきました。コンサルティングサービスはやっぱり対価が高く、利用できない団体もたくさんあるので、成功事例や最先端の取り組みといった知見や情報を幅広く共有するプラットフォームが必要だということで、セールスフォースの無料NPO版の提供もしていて、250団体ほどにご利用いただいています。
 
 ファンドレックス起業前からファンドレイジングの話は追いかけていましたが、コンサルティングの現場で実際にNPOと向き合って、対価をいただきながら結果が出るよう真剣勝負をする中で、日本で本当の意味でファンドレイジングを成功させるためにはなにが必要なのか、私自身、本当に勉強になりました。
 そこでたまった知見を盛り込んでつくったのが、認定ファンドレイザーの研修体系です。だから、アメリカのモデルとまた違うんですね。年間25兆円の寄付がある社会でファンドレイジングを議論するのと、5,000億の社会でするのとではまったく違いますから、アメリカのモデルをそのまま持って来ても使えませんから。
 そうしてつくった認定ファンドレイザーの研修は、日本でNPOの成長を考える上では、基本をちゃんと押さえれば、どの団体でもうまくいくモデルに仕上げられていると自負しています。

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――NPO相手の対価を受け取りながらのコンサルティングで、顧客が獲得できているのがすごいですね。
 
鵜尾:おかげさまで立ち上げから8年間、お客様が切れず、ありがたいと思っています。立ち上げ前は私も心配したんですけどね。前職のサラリーマン時代にコンサルティング会社を創業しようと決めたのが2007年12月、その時点でクライアントは0だったんですが、半年後の7月1日にファンドレックスを立ち上げたときには、2年分のコンサルティング案件がいっぱいだったんです。それだけニーズがあったんだなと思いました。
 
 国内外の成功事例を紹介するのは大事なことですが、そうした事例を生み出すプロセスに関わるのも大事なことなんだろうなと思っています。NPOと向き合う中で得ている知見というのは、ある意味日本で最先端の知見なので、それをプラットフォーム化して共有していければ、日本でファンドレイジングがもっと進むし、私たちも確信を持ってコンサルティングできるし。
 
 私は、マッキンゼーの中興の祖と言われているマービン・バウワーの、「コンサルティングサービスが業界全体のクオリティを上げる」という信念に共感しています。アメリカでも最初コンサルティング会社はつまはじきにされていて、「そんなアドバイスできるんだったら、自分で事業をやれ」と言われていたんですね。でも、対価をもらってコンサルティングをする中で、業界で変化を生み出す源とも言える最先端の知見をどこよりも包括的に持っているのは、本気でその業界の未来を考えているコンサルティング会社である場合があります。そのたまった知見をほかに提供したり、その経験から仕組みを発想していくことで、業界全体のレベルが上がっていきますよね。
 それはやっぱり、大学とか研究機関とは違う役割なんです。誤解を恐れずにいえば多くの大学の先生が行う事例研究は、終わった状況についての分析だけど、コンサルティングは、生み出すプロセスそのものに携わりますから。
 
 ただ、ふつうはコンサルティング会社が得た知見をフラットに幅広く共有することはないかもしれませんが、私たちの場合はソーシャル目的なので、できるだけコンサルティングの中でためてきた知見をさまざまな形で社会に提供しています。

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――ファンドレックス立ち上げの前には、国際協力に携わっていた関係もあってJICAで働かれていたということでしたが、鵜尾さんはもともと社会貢献というかソーシャルな分野に関心があったのですか?
 
鵜尾:あったんでしょうね。大学4年生の頃は、海外で仕事をしたいと考えていたんですよ。商社マンになるか、青年海外協力隊みたいに現場に行くか、JICAのような国際協力のコーディネーターになるか、あるいは旅行作家になるか、という選択肢を考えていました。
 
――その頃から海外志向やJICAという選択肢があったのは、なぜでしょう?
 
鵜尾:高校2年生のときに、『人間の大地』という本を読んだんです。夏休みの課題で、一章読んで感想文を書くというものだったんですけど、めんどくさいなと思いながら読み始めたら止まらなくなって、一章どころか一冊ぜんぶ読んでしまいました。
 そこに書かれていたのは、ベトナムのボートピープルとか、インドの貧困とか、アフリカの内戦とか、世界各地でこんなひどい目にあっている人たちがいるという話と、彼らに対して日本がなにもできていないという話でした。衝撃でしたね。
 
 大学に入ってからもそれがずっと心に引っ掛かっていて、とりあえず途上国を自分の目で見に行こうと思って、大学1年生の夏休みに1か月間、バックパッカーで中国を旅しました。それから毎年長期休暇にはタイ、インド、アフリカと途上国を回って、何がどうなっているのか見て回りました。中でもインドは2か月半くらいいましたね。そうやっているうちに、海外と絡んだ仕事をすることが自分のライフワークだと考えるようになって、JICAの存在を知って、入ったという感じです。
 
 そしてタンザニアでの経験(※第一回)があって、実は国内も課題が山盛り状態だということに15年くらい前に気が付いて、ファンドレイジングについて考えるようになって、という流れでいままで来ました。
 最初からこんなことを想定したわけではないですし、自分がNPOを起業しているとか、ソーシャルビジネス専門のコンサルティング会社をつくっているなんて、20代の頃は夢にも思っていませんでした。だけどおもしろいですね、ソーシャルセクターは。

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――取材などでソーシャルセクターで活動されている方々を知れば知るほど、逆に寄付先に悩むようになりました。自分が持っているお金には限りがあって、その中で自分はどこを応援したいのか決めるのは難しいな、と。
 
鵜尾:そうですよね。わかります。私もずっと支援している団体がいくつかありますが、ソーシャルセクターでのかかわりの幅が広がってくると、支援先を切り替えることもあります。
 支援先は数えきれないほどある。その中で、自分の予算の範囲でそのときどうするか決めるんですよね。同じ団体を継続して支援するのもいいし、そのときいちばん支援すべきだと思えるところをその都度決めてもいい。
 ただ、私は寄付というものはほんとうに金額の何倍もの効果があるという気がしています。行政からいただく1万円も、企業からいただく1万円も、同じ1万円なんですけど、やっぱり個人からいただく1万円がいちばんエネルギーの源になるんですよね。がんばるためのエネルギーが何倍にもなる。
 
 もうひとつ、JICAにいたときは、大きな組織なので同僚が1,800人くらいいたんですが、ソーシャルセクターで働くようになって、同僚が30万人くらいいるように感じています。日本ファンドレイジング協会の職員は10人くらいだし、ファンドレックスあわせてもも20人いないくらいなんですけど。
 NPOの人たちも、普段は別々に活動しているんだけど、なにかのときに一緒になると、すぐお互いに応援し合ったり、誰かの勝負時にはみんなで後押ししてあげたりする。その感じがすごくいいなと思っています。とくに20代から40代くらいまでの社会起業家の人たちはその感覚が非常に強い。お互いを励まし合ったり、応援し合ったりしているのは、すごく気持ちがいいですよね。
 
――たしかに、それは営利企業にはないことかもしれませんね。ペプシがコカコーラの宣伝をすることって、絶対ないですもんね(笑)。
 
鵜尾:そうですね。自分たちだけで社会の課題を全部解決することはできないから、みんなで協力したほうがいいし、自分は子どもの貧困の問題に取り組んでいるけれど、障害者支援だって大事だと思っている、というところがみんなにあるんですよね。
 それは、自分がこのセクターに入ってやってみてわかったことですが、すごく気持ちいい。もちろん分野とか団体特性でも違うのかもしれませんが。
 ただ、すべての方がそうでないとしても、私がおつきあいしているとくにいまの方々の雰囲気を見ていると、彼らのそうした姿勢が、イノベーションのもとだなと感じています。大事にしたいですし、社会全体をそういうふうにしていきたいですね。
 
――本日はありがとうございました。

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