「人の役に立ちたい」という気持ちをかたちにする寄付教育

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆

IMG_8179

――「寄付の教室」プログラムは、いま80教室実施されているということでしたが、日本ファンドレイジング協会から文科省や教育委員会に働きかけをして、各学校に導入されるのですか?
 
鵜尾:2年くらい前に、こういう取り組みを全国化するためにはどうしたらいいか相談していたんです。文科省の教育指導要領には、寄付教育に関する記載はないんですね。
 最初は方針を変えたらどうかという話をしたんですが、文科省とやり取りをしていると、方針を変えても現場の先生がついてこないように思えて。学校の先生も多忙ですから、現場の先生がやりたいと思ったときにいつでも講師が招けるようなサポートの仕組みをつくらないと、新しい方針を上から通達するだけでは、やらされ感が強くて、「寄付教育をやればいいんですね、はい募金箱置きましたよ」ということになってしまいそうだなと思ったんです。
 
 それでいまは、現場の先生にとって受け入れやすいメカニズムづくりを進めていて、寄付の教育プログラムの講師育成事業とともに、寄付教育オープンシンポジウムというイベントを年1回開催しています。寄付教育のおもしろい授業を一堂に集めて、紹介するんです。そしていろんな学校で実験してもらったりして、先生たちから寄付教育っていいねと言ってもらえる環境をつくって、そういう雰囲気ができてきたところに、文科省にも方針として示してもらうという順番で進めていこうと思っています。
 来年3月に行われるシンポジウムでは、アメリカの寄付教育の最前線の団体のトップに来てもらうんですが、それがバフェット・ファミリーなんですよ。アメリカの投資家のウォーレン・バフェット氏、彼は社会貢献にとても熱心なんですが、彼の孫が理事になり、彼の姉の孫がCEOになってつくったLearning by Giving Foundationという財団があるんです。大学生を中心に寄付教育を展開する事業をしているんですが、そのCEOが来てくれるんですよ。彼の来日も一つの契機にしながら盛り上げていきたいなと思っています。
 
――キリスト教の影響もあると思いますが、西洋のほうが、ノブレス・オブリージュというか、稼いだらその分社会貢献をするのが当たり前、それがかっこいいことだという空気がありますよね。
 
鵜尾:どの宗教も寄付などの分かち合いの要素を含んでいます。ただ、社会貢献のかっこよさは確かにそうですね。日本でも滝川クリステルさんがクリステル・ヴィ・アンサンブルという財団を立ち上げて、動物の保護活動に取り組んでいますが、著名人が自ら財団を立ち上げて社会貢献に取り組むモデルがどんどん出てくるといいなと思っていますし、そうした動きを誘発していきたいとも考えています。スポーツ選手や芸能人といった、みんなにかっこいいと思われている人が、かっこよくチャリティをやる。
 いま、日本初のスポーツチャリティシンポジウムを開こうと準備しているんですが、私は日本でもスポーツチャリティを盛り上げていきたいと思っているんです。単に年間ボックスシートをプレゼントしますということではなくて、海外にはアスリートによるおもしろい社会貢献モデルがいくつもあるし、国内でも出始めているので、最先端のおもしろい事例を集めて紹介しようと思っています。
 
――以前プロ野球のダルビッシュ有選手が、1アウトごとに3万円を口蹄疫の被害にあった農家に寄付するという活動をしていましたね。
 
鵜尾:まさにそうした取り組みですね。勝利へのモチベーションが社会貢献へのモチベーションにもつながる。
 アスリートの皆さんに、ファンに勝利をプレゼントすることももちろん大事なんだけど、地域や社会のためになにかしたいとがんばっているファンの夢を実現してあげるというか、自分たちの影響力を通じて社会に貢献することで、ファンに喜んでもらうという選択肢もあるんだということを知ってもらえれば、こうした動きが一気に広がるんじゃないかなと期待しています。
 子どもたちも、自分が応援している芸能人やアスリートが社会に貢献していたら、ある意味社会貢献の疑似体験ができると思うんです。自分の憧れの人が取り組んでいることであれば、ネガティブに思うことはまずないでしょうから、社会貢献ってかっこいいなというパラダイムができていけばいいなと思っています。
 
 いま、私自身がとくに力を入れているのが、子どもの寄付教育と、スポーツチャリティと、もうひとつ遺贈の話なんです。お年寄りが亡くなった後の相続が、毎年40兆円から50兆円あるんですが、最近は子どもがいない人も多く、2割から3割の人はNPOや自治体に一部でも寄付したいという意思を持っているというアンケート結果が出ています。
 ところが、実際に遺贈を行っている人は、0.1パーセントもいない。すごいギャップがあるわけです。高齢者の最後の自己実現をサポートする、そうした社会システムが必要だなと思って、遺贈寄付アドバイザーという研修制度を、8月末に立ち上げました。「遺贈寄付」では固い感じがするので、最近「レガシーギフト」と呼び始めたんですが、年内に全国レガシーギフト推進協議会を立ち上げて、全国で相談窓口をつくろうと思って、いま進めています。
 
(第四回「みんなで協力し合って課題を解決する社会へ」へ続く)

関連記事