「人の役に立ちたい」という気持ちをかたちにする寄付教育

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆

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――日本は法人寄付と個人寄付が半々くらい。外国ではだいたい8対2くらいの割合で個人寄付が多いことと比較すると、日本では法人寄付ががんばっているとも言えますし、個人寄付はまだまだ伸ばせるとも言えそうです。
 
鵜尾:だからいま私たちが非常に力を入れているのが寄付教育なんです。日本ファンドレイジング協会で実施している「寄付の教室」という体験学習プログラムがあるんですが、これがすごくおもしろいんですよ。
 6人1組のグループをつくって、いろんな活動をしているNPOのビデオや資料を見てもらって、まずは自分がどこに寄付したいかを考えてもらいます。
 寄付先を決めたら、誰がどこを選んだかまとめて貼り出すんですが、そうすると自分とは違う寄付先を選んでいる人がいるんですよね。「え、途上国じゃなくて日本の貧困なの?」「そうか、そんな考え方もあるのか」といったやり取りがそこで生まれますよね。
 
 次に、グループでどこに寄付するか決めてもらうんです。そうすると、一人のときには直観で適当に決めていても、意見が違う人がいますから、論理的なディスカッションになるんですね。「フードバンクに寄付すれば、企業の要らなくなった缶詰ももらえて、この5,000円が1万円分の支援になるんだからいいじゃん」とか「いやいやワクチン1本20円なんだよ、途上国に寄付したら何人の子どもが救えると思う?」とか。
 この議論では必ず結論を出してもらうようにしていますから、A君は途上国に寄付したいと思っても、グループ内の多数決でフードバンクへの寄付に決まったりするんですよね。ですが、各グループの発表を聞いていると、隣のグループでは途上国に寄付することに決まっている。「なんだ、あっちのグループなら俺はマジョリティなんだ」と。
 そういうやり取りの中で、寄付にはひとつに決まった正解はないし、なにをするかは自分で決めていいんだということがわかるんですね。最後に、実際に受益者から寄付者に宛てられた感謝の手紙を読んだりすることで、寄付による支援の実感とか、達成感みたいなものも感じてもらえるようにしています。
 
 さらに意欲的な学校だと、実際にNPOに話を聞きに行ったりして、活動に関する取材をします。そして、取材結果をもとに、ファンドレイジングアピールをするんです。その団体に成り代わってポスターをつくったりして、支援を募るんですね。そうして生徒たちがお互いに投票し合うんです。
 これはすごいですよ。子どもたちって、すごく説明が上手なんです。なぜかと言うと、NPOの人が説明したことの中で、自分たちの心に引っ掛かったことしか説明しないから。直観的でまっすぐなアピールなんですね。子どもたちがグループでプレゼンした後に、そのNPO団体の人にもプレゼンしてもらうんですが、まあ差が激しいんですよ。大人の説明は、つまらない(笑)。
 そういうことを体験すると、支援を求める側の気持ちもわかるようになるんですね。選ばれて支援してもらえたら嬉しいんだって。そうやって、寄付をする側の気持ちと受け取る側の気持ちを両方経験できるプログラムなんです。
 
 これは一つのパターンですが、子どもたちが社会貢献や寄付は自由も主体性もある、わくわくするおもしろいものなんだという感じを持つことができれば、その後学校で募金箱を設置することになったときに、この募金はどう使われるんですか、と先生に聞いてみたくなりますよね。そうすると先生も調べて伝えるだろうし、熱心な先生なら募金先の団体の人を呼んでくるかもしれない。そうしたら、納得も信頼もできる関係になりますよね。そういう体験が必要だなと思ってやっています。
 これまで日本は寄付に関して失敗体験を与えるような教育しかしてこなかった。にも関わらず、これだけの人が寄付しているって、逆にすごいことだとも思っていますよ。

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