誰もが生き生きと才能を発揮できる社会を

ARUN 代表 功能聡子

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功能聡子さんのインタビュー第1回、第2回はこちら:「社会性と経済性を同時に目指す新しい投資のかたち」「投資だから築ける長期的な関係
 
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――ARUNの長期的なビジョンは、社会的投資を日本でも当たり前の文化にしていくことだと思いますが、そこの向けた短期的・中期的なビジョンはありますか?
 
功能:いま目指しているのは、100億円の社会的投資ファンドをつくることです。そこまでのマイルストーンとして、まずは30億円などの具体的目標も考えているところです。それから、これまでのARUNの取り組みに参加してくださる投資家は個人の方が多かったので、もっと企業からの投資を集められるような仕組みも考えています。
 
 企業単位で参加していただくことで、現地のビジネスや起業家の顔をもっと知っていただけるし、逆に現地で日本にこんな企業があるということを知っていただくチャンスにもなって、そこにさまざまな可能性が生まれてくると思います。今後、新興国の市場が伸びていく中で、もっともっとお互いを知り合う、その一歩ともなると思うので、企業の間で社会的投資を広めていきたいですね。
 
 中には社会性と経済性は相反するのではないかとおっしゃる方もいますが、そんなことはありません。経済的リターンを生み出しながら、事業がビジネスとしてしっかり回っていないと、社会的リターンも出すことはできないんです。そうでないと、事業が存続できませんから。
 
――ARUN SeedというNPO法人を最近立ち上げられたそうですが、ARUN合同会社とはどのような関係にあるのですか?
 
功能:ARUN合同会社は、合同会社という仕組みでお金を集めて投資をする、投資の箱でありコミュニティです。ARUN Seedは、社会的投資の文化をつくるため、普及啓発や人材育成、調査研究を行うためのNPO法人です。
 
 社会的投資の文化をつくっていくためには、社会的インパクトをどのように評価していくかがとても重要です。経済的リターンは数字で測ることができますが、社会的リターンはなにをどうやって測るか定まったものがないので、評価軸を自分たちで考えてつくっていかなければなりません。
 
 社会的インパクトをどのように客観的な数値にしたり、共感を呼べるような成果に落とし込んだりできるか、これまで試行錯誤しながらインパクト評価の仕組みをつくってきました。近々、インパクト評価のレポートを出す予定なので、これまでの成果を皆さんにご紹介しながら、一緒に考えていければいいなと思っています。
 
 社会的投資のインパクト評価の調査研究や普及啓発をしたり、ほかのいろいろな取り組みとコラボしながら新しいものをつくったり、社会的投資という文化を日本に広げていくことが、ARUN Seedの役割です。
 
――社会的インパクトの評価軸をつくるのは、非常に難しいことですよね。
 
功能:大変ですがとてもやりがいがあります。私たちは、投資を決めるときに投資家と起業家の間で、社会的インパクトをなにで測るか、なにをもって目的達成とするのか、最初に合意するようにしています。そうしておかないと、あとから評価軸を設けるのは、難しいんです。
 
 合意した内容を契約書にも盛り込んで事業に取り組んでいきますが、途中で変わることもあります。そのときは柔軟に対応しています。投資家だけで決めて起業家に押し付けるのではなく、投資家と起業家が一緒になってつくっていく。
 
 また評価の視点には、従業員の視点や、周りの関係者や地域住民の視点を入れるといったこともやっています。いろいろやり方があると思っているので、そうした評価軸の多様性自体にも価値があると思っています。

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――休眠預金の活用など、日本でもソーシャルなお金の流れをつくろうという動きは進んでいるように思いますが、休眠預金に関して言えば、使い先が国内に限られることになりそうです。
 
功能:当たり前のことですが、日本は日本だけでは存在できません。日本の課題と世界の課題は深く結びついています。もちろん、国内の課題、地域の課題は大切です。ただ、いま私たちが生きている社会に存在する大きな課題を考えるとき、日本とそれ以外の海外と分けて考えることには違和感があります。
 
 たとえば、先日ある会議でイギリスの方とご一緒したのですが、その方のプレゼンテーション資料では、「イギリスのアルツハイマー患者への支援」「リベリアの自立支援」「ラオス、カンボジアの障害者雇用」の3つの課題が、同列に語られていました。これから必要なのは、この感覚だと思うんです。「国内の課題もあります。海外の課題もあります。それは私たちが生きているこの時代の課題です」。自分のことだけ考えるのではなく、世界に目を開くマインドセットがあってもいいのではないかと思います。
 
 社会的投資についても同じことが言えて、欧米の社会的投資機関には、国内向けの社会的投資と途上国向けの社会的投資と、両方に取り組んでいるところがたくさんあります。ヨーロッパの金融機関の中には、預金の利息を社会的投資に回せるというオプションがあり、その投資先には国内の地域課題解決もあれば、途上国支援もあります。そういうふうに日本もなるといいなと私は思っています。
 
 制度設計には、そこに携わる人やその社会の価値観が反映されると思います。休眠預金の使い道を国内に限るのにも、理由があるのでしょうが、もっと広い視野で考えたほうがいいのではと思います。
 
 課題への取り組み方に関しても、たとえば日本は高齢化が世界でもっとも進んでいるから、日本が解決策をつくって、それを世界に輸出していくんだと聞くこともありますが、もっとスピードアップが必要だと考えています。世界への貢献というのは、いま、なにをしているのか見えることが大切。例えば、インドでも高齢者に対する福祉サービスを提供しているソーシャルビジネスがあるんですが、日本ではあまり知られていませんよね。
 
 世界中にいろんな課題があって、いろんなユニークな取り組みがあって、それぞれにいいところがあるのです。同時並行でシェアし協力し合えるように、課題とその解決策が、国境を越えて開かれていくといいなと思います。

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――援助する側、される側、ではない関係。地方再生や被災地の復興についても、同じようなお話をちらほら聞いています。国がやってくれない、行政がやってくれない、と言っていてもなにも変わらないことに気づいて、自分たちでがんばるんだという人たちを、どうやって応援していくか。がんばる人たちに寄り添える仕組みが大きく育っていってほしいですね。
 
功能:「自分たちにはできない、やってほしい」と援助を求める人は、カンボジアにもたくさんいます。どこにでもそういう人はいますが、その中に自分たちでやっていこう、がんばっていこうという人たちが、必ずいます。そういう人を見つけて引っ張り上げて、応援していくのが大事だと思います。
 
 とくに、東日本大震災以降の東北は、東京を介さずに直接世界各地とつながっていたりするんですよね。東北へ行っていろんな人と話をすると、みんな当たり前にネパールとかカンボジアとかインドのビジネスの話をされていて、地方のほうが直接現地とつながっている部分があるんだなと感じました。
 
 また、ARUNに投資してくださっている経営者の方も、「自分の周りの中小企業で、東南アジアに出て行かなければならないと思っていない企業はない」とおっしゃっていました。なにかをしたい、なにかしなければならないという意識はある。だけど、なにをどうやっていいかわからない。そういう課題意識は、実は地方のほうが強く持っているのかもしれません。
 
 仕組みもやっぱり大事なんですよね。仕組みをつくると、それに合わせてお金や人が流れていくことになる。それは私たちの考え方や見方にも影響を与えます。ですから、制度を設計する人たちの責任はとても重いと思っています。それはいまこうして社会的投資に取り組んでいる私たちもそうです。
 
 制度をつくる立場の人が、どんなマインドセットでいるのか、これからの日本のあるべき姿、世界の中での存在感をしっかり考えた上で、それが見えるように発信していかなければいけないと思っています。
 
 ARUNが最終的に目指しているのは、「地球上のどこに生まれた人も、ひとりひとりの才能を発揮できる社会」。その手段としての社会的投資の仕組みをしっかりつくって広げ、誰もが生き生きと輝ける社会をつくっていきたいと思います。
 
 
 
功能 聡子(こうの さとこ)* 国際基督教大学(ICU)卒業後、民間企業、アジア学院勤務の後、1995年よりNGO(シェア=国際保健協力市民の会)、JICA、世界銀行の業務を通して、カンボジアの復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し 2009年ARUNを設立。2014年にNPO法人ARUN Seedを設立、代表理事を務める。

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