社会性と経済性を同時に目指す新しい投資のかたち

ARUN 代表 功能聡子

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――これまでの考え方としては、寄付は無償提供であるのに対し、投資は出資額プラスアルファの回収を前提にしていて、お金を出すモチベーションとしては対極の概念ですよね。最初に社会的投資に賛同して出資してくださった方々のモチベーションは、どこにあったのでしょうか。
 
功能:投資家の方々へのアンケートを行ったのですが、「社会的投資について知りたい、実践したい」、「寄付ではない国際協力の新しい形に挑戦したい」、「金融の可能性をひろげたい」、「面白い人に出会いたい」など、様々な動機の方がいました。「ビジネスを通して途上国の発展に貢献したい」という声も多かったです。参加後には、投資先の成長に喜びを感じるといった回答をいただきました。
 
 「途上国ビジネスに関わりたい」という動機もありました。現地の人が実際になにをどんなふうに考えて、なにを望んでいるのか、ステレオタイプの情報ではなく、もっと深く知りたいという期待もあると思います。現地のビジネスについて、投資しているからこそ得られる情報もありますから。
 
 投資とは、リスクをとるものです。預貯金や個人向け国債のような元本保証はありません。ではなぜリスクをとれるのかというと、その先に大きなリターンがあると思うからですよね。投資ではリスクとリターンのバランスが重要ですが、一般的な投資では「どのくらい金銭的に儲かるか」がリターンになります。社会的投資の場合は「どのくらい幸せになるか」「どのくらい貧しい人が減るか」「どのくらい世の中におもしろい取り組みが生み出せるか」「どのくらい新しい価値を生み出せるか」といったことがリターンになります。
 
 日本人は元本保証に慣れているので、リスクのある投資というもの自体に馴染みがないと言われてきましたが、リスクを取ることを恐れないことも重要だと思います。リスクを取っているのは投資家だけではありません。投資先である社会起業家もリスクを取っています。世の中にないサービスを生み出すとか、新しい方法で課題解決に取り組むとか。これまでなかったものをつくるのですから、道がない。自分で新しい道を切り拓いていくのが社会起業家です。彼らと一緒にリスクを取りながら、その取り組みが生み出す社会的リターンを追い求めていく。ビジネスの力で課題を解決し、社会を変えようとしている起業家たちをリスクを分け合いながら応援し、新しい未来を一緒につくっていく。それが社会的投資であり、新しい文化と言ってもいいものだと考えています。
 
 社会的投資の新しい文化を日本にもつくっていきたいんです。そうしたら、日本ももっとチャレンジする人を応援しやすい、自らもチャレンジしやすい社会になると思います。世界にはたくさんの課題がありますよね。それらを解決しようと国境を越えてチャレンジしている人がいて、その中にはとても考え付かなかったような面白いアイデアや取り組みもたくさんある。そういうことを知ると、すごくワクワクしませんか? 世界中の社会起業家と投資というかたちでつながる、新しい文化をつくっていくことが、日本をもっと豊かにするし、もっと開かれた社会にしていくのではないかと思います。それが、社会的投資を通して私がやりたいことですね。

(第二回「投資だから築ける長期的な関係」へ続く)
 
功能 聡子(こうの さとこ)* 国際基督教大学(ICU)卒業後、民間企業、アジア学院勤務の後、1995年よりNGO(シェア=国際保健協力市民の会)、JICA、世界銀行の業務を通して、カンボジアの復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し 2009年ARUNを設立。2014年にNPO法人ARUN Seedを設立、代表理事を務める。

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