ゼロからの学び直しを支援したい

NPO法人キズキ 理事長 安田祐輔

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自己肯定感を育むための「学び直し」支援
 
 新卒として総合商社に入社した安田さんだったが、どうしても会社に馴染めず、入社から4か月ほどで鬱になり、退職を余儀なくされる。正しい仕事をしているのか、疑問を感じたためだった。しばらくは貯金を食いつぶしながら引きこもり生活を送っていたが、知人の紹介で社会起業塾に通い始めたことが、キズキ共育塾立ち上げの実質的な第一歩となった。
 
「もともと起業を目指していたわけではなかったんですが、社会人経験4か月で鬱になった人間を雇ってくれる会社はなかなかありません。だったら自分で事業をするしかないな、と思ったんです。バングラデシュの問題もずっと頭の中にありましたが、日本でも苦しんでいる人はいる。だから、両方の問題をやることにして、まずは日本での事業を始めることにしました」
 
 世の中で困難を抱えた人々がやり直せる社会をつくることをミッションに掲げ、その手段として、「学び直し」を支援する塾をつくった。それがキズキ共育塾だ。
 
「10代の若者の場合、やり直すために必要なのは、人によっては職業訓練よりも勉強だと思っているんです。大学に行くかどうかは個人の志向の問題だから、どちらでもいいと思いますが、大学を出たほうが可能性や選択肢が広がるのが、いまの日本社会の現実ですよね」
 
 高校を中退して最終学歴が中卒ということになると、いまの日本社会で就ける仕事は非常に限られたものとなる。高校に通い直すことが難しい場合は、高卒認定試験をとったほうがいい。一方で、高卒認定試験だけでは、学歴としては中卒のままになるため、大学に上がらなければ意味がない。
 
「人生は人それぞれですから、絶対こうしなければならないというかたちはないと僕は思っていますが、中卒では選択肢が限られるということは、明らかな事実です。だったら、いまの日本の中で生きやすくなるためにどうしたらいいかということを現実的に考えると、勉強をやり直して、高校や大学を卒業したほうがいい。もちろん、スポーツの才能があるとか、家業を継ぐといった場合はそうではないですが」
 
 日本の社会には、たとえば多くの若者が22~23歳で就職するように、「○歳で××をするのが当たり前」といったある種の「基準」が存在している。そのため、そこから外れると、「自分はだめな人間なんだ」と思い、苦しさを抱えてしまうようになりやすい。
 
「こうするのが当たり前、という決まり事はない社会のほうが、僕のように社会のレールから一度外れた人間は生きやすい。大学に行かなきゃいけないなんて僕は思っていないし、言いたくもない。それぞれいろんな生き方があっていいと思います。だけど、ある程度はレールに乗っていないと生きづらいというデータがあるのであれば、そうしたところはちゃんと手当していったほうがいいと考えています」
 
(第二回「困難を抱えた人々が自己肯定感をもって生きていける社会に」へ続く)
 
安田 祐輔(やすだ ゆうすけ)*1983年神奈川県生まれ。ICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科卒。在学中にイスラエル・パレスチナで平和構築関連のNGO活動に取り組み、一時大学を休学しルーマニアの研究機関に勤務。主に紛争解決に向けたワークショップのコーディネートなどに携わる。大学卒業後、総合商社勤務を経てNPO法人キズキを立ち上げ、現在同理事長を務める。不登校・高校中退経験者を対象とした「キズキ共育塾」を運営するほか、大手専門学校グループと提携した中退予防事業などを行なっている。
 
【写真:永井浩】

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